《☆~ 二つの魔石(三) ~》
地下迷宮にある脅威の数々が語られる間、オイルレーズンは、破壊する方の魔石を見極めるには、どうすればよいかを考えていた。
一つの方策を思いつくけれど、それには、いくつか承諾を得る必要がある。まずは、オクラ氏に問い掛ける。
「ラディシュグラッセの持っておった魔石が、二つのうちどちらか分かったなら、それを返すのじゃろうか?」
「もちろんですとも。罪人から没収した品目であるとはいえ、それを民生事務所が横取りするような真似は、決して致しません。元の持ち主である働いたら負け王妃さんに、返却するのが道理というものです」
「そうか。ではラディシュグラッセにも、一つ尋ねるとしよう。魔石が手元に戻るなら、どうするつもりかのう?」
「どうもしません。持っていても、なんの役にも立ちませんから」
「ならば、破壊してよいのじゃな?」
「ええ、今さら、われには必要ありませんし」
キャロリーヌが問い掛ける。
「一等栄養官さま、魔石を識別する方法がありますの?」
「そうじゃとも」
「それはよろしいこと!」
「いいや違う」
「あらまあ、違いますの!?」
「ふむ。あたしが考えたのは、よくない方法なのじゃよ」
「それは一体どのような??」
キャロリーヌに限らず、当然のこと、他の者たちも「どんな方法だろうか」と思わざるを得なかった。
それでもパースリだけは、すぐに勘づいて、オイルレーズンに問う。
「二つの魔石から一つを選び、破壊して確かめる方法でしょうか?」
「その通りじゃとも。どちらか一方を破壊した後、オクラ氏とフォンデュ氏の胸の内で、パンゲア地下牢獄長老を崇める気持ちが消えぬようなら、破壊した方の魔石は、ラディシュグラッセの持っておったものじゃと分かる。それと同時に、あたしらの目的も果たせたこととなる」
「おうおう、まさに一石二鳥ですぜ! がっほほほ!」
笑うショコラビスケに向かって、マトンが冷静な意見を話す。
「喜ぶのは早いよ。もう一方の魔石が破壊されてしまったら、長老の権威は消えるからね。そんなこと、オクラ氏たちにしてみれば、認めたくないだろう?」
「そりゃあそうでさあ! 首領、どうするのですかい?」
「取引じゃよ」
オイルレーズンは短く発し、オクラ氏の顔面に視線を移す。
突如、フォンデュ氏が口を挟む。
「魔石が破壊されては困ります。ですから取引に応じる訳にはいきません。大賢者の最上級宝石と交換してくれるというのであれば、話は別ですけれど」
「ロウフ、そのような珍品を、この方々が所有しているはずはないですよ」
「はい、それもそうですね」
「最上級宝石なら、持っておるよ」
「ええっ、今なんと??」
フォンデュ氏は、自らの耳を疑い、オイルレーズンの目を見つめる。
パースリが、彼の背袋から賢者の石を取り出し、食卓の上に置く。それを見届けてから、オイルレーズンが話を続ける。
「これこそ、大賢者の最上級宝石と呼ばれておる、六系統の魔石、地下街の長老どころか、一国の王の権威を保つに値する代物じゃよ。ふぁっははは!」
「本当に最上級宝石なら、それだけの価値はあるでしょう。しかし、本物ということを示せますか?」
「もちろんじゃとも」
オイルレーズンが賢者の石を使い、不浄な泥の混じっている水を透き通った清い水に変えた上で飲んでみせたり、乾燥牛肉を新鮮な生肉に戻したり、いくつかのことを行う。
それらの実演が功を奏し、オクラ氏とフォンデュ氏に、目前の石が紛れもなく最上級宝石であると、信じさせることができた。
「どうじゃろうか、オクラ女史の持っておる二つの魔石のうち、どちらかを破壊させてくれぬかのう? それが運悪く、長老の権威を保つ方じゃったら、代わりに、これを進呈するとしよう」
賢者の石を、いわゆる「担保の品」に使うということ。つまり、これがオイルレーズンの考えた取引なのだった。
しかしながら、オクラ女史は、首を縦に振ったりしない。
「この私、ニシメ‐オクラの一存では決めかねます」
「決して悪い取引でもないと、思うがのう?」
「それは分かります。ですから、私が独断で承諾するのでなく、明日、民生事務所で会合を開き、よく話して決めたいと思います」
「ふむ。やむを得ぬのう」
こうして、魔石の破壊は先延ばしとなった。