《☆~ 老魔女の娘に起きた悲劇(一) ~》
白竜髄塩を使った真雁の煮込みは、格別な逸品であった。
幻の調味料と呼ばれているだけのことがあり、濃厚で深みのある味わいを引き立たせ、それでいて上品な風味に仕上がっていた。
つい先日、キャロリーヌが作った煮込みも、自身では最高の一品と思っていたのだけれど、今回の料理は、それですら比較にならないくらいに、文字通り「格別」だったということ。
朝から贅沢な食事を心ゆくまで堪能したオイルレーズンとキャロリーヌは、落ち着いて話をするために、談話室へ移ることにした。
キャロリーヌが調理場から台車を押してきて、載せてあった二客の茶碗を手に取って、卓上に並べる。そこに、丸壺の香草茶を注ぐ。
周囲へ、爽やかな香りが漂った。
「粗茶ですけれど、よろしかったらどうぞ」
「ふむ」
オイルレーズンが香草の風味を楽しみ、ゆっくりと口に含ませる。
同じようにしてキャロリーヌも少しだけ飲み、それから話を切り出す。
「今日こちらへ、オイルレーズンさんがお越しになった目的は、どのようなことでしょうか?」
「それは沢山あるのじゃが、まずはあたしと公爵の出会いから話そう」
香草茶を飲みながら、老魔女は語るのだった。
二杯目を飲み終えるまで、オイルレーズンとグリルの出会いを作ることになる悲劇的な逸話が、長々と続いた。
この悲劇は、今から十七年くらい昔に起こったのである。
当時のオイルレーズンには、ドライドレーズンという名の娘がいて、その者も当然のこと、魔女だった。
魔女族が人族との間に産む子が女だったなら、その娘もまた魔女となる。生まれるのが男なら人族である。この自然の理については、もちろんキャロリーヌも、幼い頃に母から聞いて知っていることである。
ドライドレーズンは美しく知的な魔女だったから、パンゲア帝国の王、バゲット三世に見初められ、第二王妃になった。
王室にはそれ以前から、オリーブサラッドという名の第一王妃がいて、彼女も同じように魔女だった。パンゲア帝国の王室典範は、「王の第一子を皇太子とするべし」と明確に定めている。その者は、どの王妃の子であってもよく、いわゆる「早い者勝ち」という理屈に従っている。このため、女子が皇太子となれば、次期パンゲア帝国王には、その者が女王として即位する。
オリーブサラッドは、第二王妃が先に身篭ったことを知り、王室から第二王妃を退けようと企てるのだった。これが、オイルレーズンの娘、ドライドレーズンに起こる悲劇の始まりである。
第一王妃と、その側近たちから執拗な嫌がらせを受けたドライドレーズンは、ついに王室から逃げ出す。それでもオリーブサラッドは満足できず、後顧の憂いがないようにと残忍な策を巡らし、パンゲア帝国の衛兵たちに、「第二王妃を追って、必ずや亡き者にせよ」と厳命したという。




