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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》パンゲア地下牢獄を巡る騒ぎ
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《★~ オクラ氏の演説 ~》

 高さがお馬の背丈二つ分ある土塁の上に、オクラ氏が、一人の女性を伴って姿を現した。

 二十人の獣族からなる槍部隊が、土塁の周囲に円形サークルを描いて並び、強固な守りの構えを見せている。


「あちらの女性は、先ほどのお方ですわ」

「そうじゃのう」

「おうおう、俺さまも、あの顔に見覚えがありますぜ!」


 キャロリーヌの口にした「あちらの女性」というのは、オクラ氏につき従っている人族のことで、ここへの道を教えてくれた者に相違ない。

 散り散りになっていた参列者たちも戻ってきて、広場が埋め尽くされた。

 オクラ氏が、おもむろに話を始める。


「お集まりの皆さん、この私、ニシメ‐オクラの言葉に、耳を傾けて下さい。まずは、先ほど起きた暴動について、経緯いきさつを説明します」


 このような広い場所、大勢を前にした演説において、遠くまで伝えるためには、間に立つ者たちに中継リーレイして貰わなければならない。だから、聞き取りやすい声で、ゆっくり話す必要がある。この点で、オクラ氏に抜かりはない。


「今朝、私たちの偉大な、三代目のパンゲア地下牢獄長老であられた、クッパプ‐ケバブさんが身罷りなさいました。この一件に関係して、奇妙で不審な点があり、明らかとするために、私の後ろに立つ誠実な役人の一人、ロウフ‐フォンデュが、疑わしい者であるヨガト‐ラクトウスに質問を投げ掛けようとしました。でもロウフは、数人の男性によって取り押さえられます。ヨガト寄りの役人集団が、ヨガトの働いた悪事の真相を、隠そうとしたのです」


 突如、なにか丸い塊が、土塁の上に飛んできた。槍部隊の一人が俊敏に動き、それを断ち切ろうとする。

 投げられたのは、乾かして固くした泥の玉で、長槍の切っ先によって粉々に砕かれる。オクラ氏およびフォンデュ氏は、怪我をしないで済んだ。

 泥玉を投げたのは、人族の若い男性だった。近くにいた役人たちが、その不敬な輩を捕らえ、身体に縄を巻いて動けないようにした。

 演説を遮られたけれど、オクラ氏は、声の調子を変えることなく、今の行為に対して注意を与える。


「たとい百よりも多く、泥の玉を投げつけようと、悪行の真相を覆い隠すことは、決して、できないものです。他にもまだ、無意味な玉を隠し持っている者がいるなら、直ちに、それを捨て去りなさい」


 オクラ氏は、しばらく黙ることにした。

 キャロリーヌの近くにいる人族の老婆が、泥の玉を地面に落とした。周囲に立つ男たちが、老婆を取り押さえようと動く。

 この光景を見ていたオクラ氏が、咄嗟に口を開く。


「正直に泥玉を捨てた者を責めないで下さい」


 この言葉を掛けられたお陰で、老婆は許される。それに加えて、泥玉を用意していた他の者たちも、安心して捨てることができた。

 広場は、少なからず騒然となっていたけれど、一分刻(ミニト)のうちに静まり、演説が再開となる。


「ヨガトによる悪行を暴こうとしたロウフが拘束されました。そればかりか、ロウフの味方になろうとする者たちにも、ヨガト寄りの役人集団が暴力を働き、暴動が起きてしまったのです」


 参列者は皆、静かに聞いた。もう泥玉を投げる者はいない。

 こうして、演説が途切れることなく進む。

 今朝、パンゲア地下牢獄で生まれてから四十五年と一日目を迎えたヨガトは、以前から入念に準備してきた計画を実施したという。彼女の巡らした謀略は、人族に害のある毒を野菜汁ヂュースに混ぜ、ケバブ氏の邸宅からお使いにきたキッシュに、麺麭パンと一緒に渡したこと。自らが四代目の長老となるためである。

 これを聞いたオイルレーズンは得心に至る。つまり、元気そうに見えたケバブ氏が、一つ刻のうちに息絶えたことを不思議に感じていたのだけれど、その真相は毒殺だと知って、ようやく腑に落ちたということ。


「罪人となったヨガトを、長老に就任させる術などありません。そこで、次に長老となる条件を満たす者を調べたところ、奇遇にも、この私、ニシメ‐オクラが、そうであると分かりました。でも私は、この命の続く限り、代理人エイヂェントに徹しようと誓います。その間の長老を、引き続き、三代目のクッパプさんにお任せしようと、胸の奥底で決めたのです」


 オクラ氏の演説が、これで終わった。

 広場中に、大きな拍手と歓声が響き渡る。キャロリーヌも、心を動かされてしまい、胸の内で「オクラさんは、素敵な婦人レディですわ」とつぶやくのだった。

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