《★~ 中央大広場での騒ぎ(二) ~》
一つに整然と列をなしていた参列者の多くが、迫る厄災事から逃れるために、四方八方へと散り散りに走り出している。その中には、お互いに衝突して転ぶ者たちも少なくない。
パースリは、速やかに退避した方がよいと考えたけれど、「お伺い」を立てるかのように、控え目な口調で尋ねる。
「オイル伯母さん、ボクたちも安全なところへ移動するのがよいでしょうか?」
「いいや違う。こんなにも混乱を極めた状況とあっては、動かぬままでおるのが、却って安全じゃわい。ふぁっははは!」
「おうおう、さすがは首領オイルレーズン女史でさあ!」
ショコラビスケが、大きな笑い声を放つと同時に、キャロリーヌとオイルレーズンの前へ歩み出た。自らの巨体を防壁にして、二人を守ろうということ。その反対側にも、マトンとパースリが立って、守りを強化する。
緊迫した状況は、しばらく続く。
十分刻ばかり経過する頃、ようやく騒ぎが沈静に向かってきた。暴動を起こしていたのは、どうやら人族の集団で、獣族の長槍部隊が、それら沢山の男性どもを捕らえて、民生事務所の方へ連れてゆく。最後に連行される一人だけ女性だった。
この光景を眺めながら、マトンがつぶやく。
「まさしく紅一点だね」
「俺たちの中に、キャロリーヌさんがいるのと、同じってえことですね?」
「ショコラや、あたしはどうなのじゃろうか」
「がほっ、こりゃあ済みませんでさあ!」
「藪蛇になってしまったね?」
「へいへい、マトンさんの言う通りですぜ……」
暴動がすっかり鎮圧されたとあって、散り散りとなっていた参列者たちが、三三五五、集まり始めている。その中に、キャロリーヌたちの見知った顔がある。
「牛肉食堂さん!」
「おや、先ほどの方々ですね。働いたら負け王妃との面会は終わりましたか?」
「あたくしたちの用は済みましてよ。ジャンバラヤさんが、まだお話をなさっておられると思います」
「鎖鎌をお持ちの旦那さんですね」
ここへオイルレーズンが口を挟んでくる。
「牛肉食堂の主人や、暴動のことを、なにか知っておるじゃろうか?」
「わてにも詳しいことは分かりませんけれど、暴動を起こしたのが民生事務所の役人で、鎮圧したのは、民生事務所に雇われている槍部隊のようです」
「一人だけ、人族の女性が連れてゆかれたのう」
「はい、ラクトウス食品配給所の女です」
「なんと!! あの者がヨガトじゃったのか!」
顔を知らないのだから仕方がないけれど、捜している者が通るのを、雑談をしながら見過ごしたのだから、残念に思わざるを得ない。
「はい、ヨガト‐ラクトウスです。お知り合いでしたか?」
「名前だけ知っておる。あの者は、どこへ連行されるのじゃろうか?」
「悪事を働いたのなら、牢獄に入れられるでしょう」
横からショコラビスケが話に割り込む。
「この地下牢獄に、別の牢獄があるのですかい?」
「戯け!! つまらぬことばかりを抜かしおって!」
「がほっ、重ね重ね、済まねえでさあ……」
また余計なことを言ってしまい、深々と頭を下げるショコラビスケ。
マトンがオイルレーズンに問い掛ける。
「彼女を追いますか?」
「どうするかのう」
もしもヨガトが罪人として扱われているのなら、彼女に用があると伝えたところで、民生事務所の役人が快く応じてくれるとは限らない。そればかりか、ともに悪事を働いた仲間と誤解され、捕らえられるかもしれない。
オイルレーズンが迷っているところ、また一人、見知った女性が、長槍を持った数人の獣族を従えて、目の前を通り過ぎようとするのだった。
キャロリーヌが呼び掛ける。
「あら、オクラさん!」
「クッパプさんの邸宅にいらした、お方たちですね」
「仰せの通りです。あ、名乗っていませんでした。あたくしは、キャロリーヌ‐メルフィルですわ」
「そうですか。この私、ニシメ‐オクラは、今から先ほどの暴動について、ここにお集まりの方たちに説明をする務めがありますので、お話は、また次の機会ということにしましょう」
オクラ氏と獣族の集団は、急ぎ立ち去る。
「取りあえず、オクラ女史の説明とやらを、聞くとするかのう」
オイルレーズンの提案に総員が賛同し、できるだけ広場の中心近くまで移動することとなる。




