表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》パンゲア地下牢獄を巡る騒ぎ
231/438

《★~ 働いたら負け王妃(二) ~》

 偶然にして、生き別れの姉を知る者に出会えたものだから、ジャンバラヤ氏は多大な幸運を感じると同時に、胸の内が騒いで動揺を隠せない。


「マトン爺さん!!」

「な、なんだ??」

「オレの姉は今どこにいる!」

「はあ? お前の姉とは誰のことだ」

「ラディシュグラッセだ。今どこにいるのか、教えてくれ!」

「わしは知らん」

「ええっ!?」

「働いたら負け王妃の居場所を知らんのだ」

「そんな……」


 がっかりして肩を落とすジャンバラヤ氏である。

 彼に代わり、キャロリーヌが話す。


「先ほどザクースカさんは、《よく知っている》と仰いました。でも、ラディシュグラッセさんの居場所をご存知でないのは、どういうことかしら?」

「おや、わしは、《よく知っていた》と言ったつもりだがな」

「いいえ、違っていましてよ。間違いなく、《よく知っている》とハッキリ仰いましたわ」

「ふむ。あたしにも、そのように聞こえたわい」


 オイルレーズンがキャロリーヌの主張に賛同した。ザクースカ氏を除いて、他の者も口には出さないけれど、同じように思うのだった。

 ザクースカ氏は弁解する。


「歳を取ると、ついさっき言ったことまで忘れてしまう」

「がっほほ! 俺は寝る前までなら、ちゃんと覚えていますぜ?」

「ショコラや、話がややこしくなるのでな、黙っているがよい」

「了解でさあ。がほほ……」


 オイルレーズンから注意を受け、ショコラビスケは口を閉ざす。

 再びジャンバラヤ氏が、ザクースカ氏に問う。


「ラディシュグラッセを()()()()()というのは、本当なのだな?」

「そうだ。半年ばかり以前から、わしと一緒に暮らしていた」

「な、なんだと!!」

「そして十日前、働いたら負け王妃は、唐突に姿を消した」

「姿を消しただと!!」


 繰り返して大声を上げるジャンバラヤ氏である。

 近くを歩いていた数人が止まり、「なにごとか」というような表情で、こちらを窺っているのだった。それでオイルレーズンが、一つ提案を出す。


「路上で大勢が、このように立ち話をしておっては、通行の妨げとなって大きな迷惑じゃわい。場所を変えて、働いたら負け王妃なぞと呼ばれておるという、ラディシュグラッセのことを、聞かせて貰えるじゃろうか?」

「そうだな、わしの新しい家にくればよい」

「ふむ、そうするとしよう。ショコラや、ザクースカさんに代わって、看板サインボードを運ぶのじゃよ」

「へいへい、お引き受けしますぜ。がほほ!」


 ショコラビスケは、「小料理屋マトン」と書いてある大きな札を、片手で軽々と持ち上げる。

 手ぶらになったザクースカ氏に、キャロリーヌが問い掛ける。


「新しいお家は、どちらにありますの?」

「あっちだ。ついてきなされ」


 ザクースカ氏は、少し先にある脇道へ向かって歩き始めた。キャロリーヌたちが後に続く。


「今日は、やけに人出があるなあ」


 歩きながら、ザクースカ氏がつぶやいた。

 目指す脇道の奥から、人族や獣族が、こちらの広い通りに向かってくる。その者たちを見て、オイルレーズンが口を開く。


「皆、中央大(セントラル‐)広場プラーザに行くのじゃろう」

「今日は、なにか催しでもあったかな」

「ザクースカさんは、まだ知らぬか。先ほど、長老エルダが身罷りになったのじゃよ」

「なに、そうなのか!?」


 ケバブ氏の死去は、ザクースカ氏にとって初耳だった。それでも、二代目のパンゲア地下牢獄長老が身罷った二十年前の記憶が蘇り、得心に至る。


「すると、クッパプさんを弔う式典があるのだな」

「そのようじゃけれど、その前に、まずは四代目の長老を定めると、役人のオクラ女史が話しておったわい」

「ああ、あの説明好きの女だな」


 ザクースカ氏が言うには、オクラ氏は他の者を相手に、色々と説しく教えることに生きがいを感じているらしい。

 キャロリーヌが、また質問をする。


「四代目の長老さんは、どのように決めますのかしら?」

「このパンゲア地下牢獄に四十五年より多く暮らした人族の女性で、一番遅くに生まれた者が、新しい長老に選ばれるのだ」

「あら、そうなのですね」


 厳格な規律が用意されているお陰で、民籍帳簿を調べさえすれば、簡単に四代目を定められるという。だから今頃、新しい長老が決まったに違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ