《☆~ 魔女族の訪問(三) ~》
こちらから尋ねたいことは山のように沢山あるけれど、この見るからに頑固そうな老婆は、おそらく真雁の煮込み料理を口にするまで、説明を一切してくれそうにないと思われる。
それでキャロリーヌは観念して、オイルレーズンから要求された調理を、取りあえず始めることにした。
亜人類ではあっても、人族と同じように言葉を交わせる者がいるというのは、寂しさを紛らわすことができる。そして、せっかくの白竜髄塩と新鮮な生肉なのだからと、いつも以上に腕を鳴らすキャロリーヌである。
椅子に腰掛けているオイルレーズンは、この少女が無言で一心に作業するのを眺めながら、おもむろに口を開く。
「お前、あたしから聞きたいことがあるのじゃろう?」
「え、はい。ありますけれど、それらは後で、ゆっくりお尋ね致しますわ」
「ふむ。なかなかに殊勝な心掛けじゃ。ふぁっはっはぁ、あがぁ、顎が痛い!」
キャロリーヌは、老いた魔女には見向きもせず、熱心に手を動かし、しばらくして下拵えが済んだ。
やや低い温度の湯が鍋に用意してあり、刻んだ雁肉を、その中でゆっくり煮る。浮いてくる灰汁を丁寧に取り除く。根気を要する作業である。
もう一つ別の鍋で、香草、甘い木の実、根菜、小魚の干物などを使い、特製のスープを作る。
調理を始めてから、一つ刻ばかりが過ぎた。この間、キャロリーヌもオイルレーズンも、ひたすらに無言を貫いていた。
「頃合いです」
キャロリーヌが短くつぶやき、軽く煮込んだ肉片を深皿に移す。煮汁は布で濾してから、スープと合わせる。その鍋に深皿の肉片を入れ、再び火に掛ける。
白竜髄塩を小匙ですくい取って加える。あと二回、それを繰り返す。
鍋用の杓子を使って、ゆっくり優しく掻き混ぜる。
「ふうっ、これで一段落ですわ」
「あとは時間を掛けて、フツフツと煮込めばよいのか?」
「そうです」
「どのくらいじゃ?」
「三つ刻ほど」
「おおそうか。それならば、刻短じゃな」
「それはなんですの?」
「刻を短縮する魔法じゃよ。ふぁはは」
オイルレーズンは、笑みを満たした表情で、「刻削減」と発する。
この瞬間にキャロリーヌは、鍋から漂ってくる香りが明らかに変化していることを感じ取った。
「あらまあ!?」
「ふぁっはは。さあさ煮込みの具合を、確かめてみな」
「はい」
少量のスープを小皿に取り、ゆっくり鼻先へと運ぶ。
まずは香りを調べ、それから口に含む。
「ここっ、これは!」
「三つ刻ほど煮込んだような味に、なっておろう?」
「はい、まさしく」
「ふぁっはは。さあて、あたしに食わせておくれ」
「もちろんですとも」
キャロリーヌが台車を準備しようとしたけれど、オイルレーズンから「ここでよいのじゃ」と遮られ、この場で食べて貰うことにする。
調理台の上を手早く片付けてから、深皿を置き、仕上がった真雁の煮込みをよそう。その横に清潔なナプキンを敷いて、フォークと匙を並べる。
「どうぞ、お召し上がりになって」
「ふむ。頂こうか。ああキャロルや、お前もあたしと一緒に食え」
「は、はい!」
破顔一笑のキャロリーヌである。深皿をもう一つ用意し、オイルレーズンと並んで椅子に腰掛け、この温かな料理を食する。