《★~ 魔石探しの再開 ~》
オクラ氏は、説明を終えたので黙り込む。
それでアーモンド女史が、出立の断りを述べる。
「すったら、ワテら行かなんね」
オイルレーズンが「ふむ」と返答し、小妖魔の兄妹に言葉を掛ける。
「グラタンとキッシュや、達者でのう」
「ひゃい」
「たっちゃ?」
グラタンは理解して答えたけれど、キッシュの方には通じていない。
この時、ケバブ氏の邸宅内から、棺を載せた細長い台車が出てくるのだった。アーモンド女史は、二人を連れて足早に立ち去る。
台車の邪魔とならないように、オイルレーズンたち一行が道を空ける。
運ばれてゆく棺には、ケバブ氏が着ていた菫色の婦人服を被せてある。これはパンゲア地下牢獄長老の正装で、帝国女王の母が着る衣服と同じだと、ケバブ氏は話していた。
オイルレーズンが、棺に向けて言葉を発する。
「安らかに眠るがよい」
「どなたかがお亡くなりになることは、本当に悲しいですわね」
キャロリーヌも、思わずつぶやいた。母親のマーガリーナに弟のトースター、そして父親のグリルまで失って感じた、あの胸の激しい痛みが蘇る。
「俺も、親爺が金竜との戦いで命を落としたってえ知らせが届いた日にゃ、悲しみと怒りで、おかしくなりそうだったぜ!」
「うん。あの時は、この僕だって、涙を沢山流したものだよ」
マトンがしみじみと話した。ショコラビスケの父親で、マトンにとっては集団の大切な仲間だったヴァニラビスケが業火で丸焼きにされる瞬間を、目の当たりにしたのだった。その悲惨な光景は、決して忘れない。
ここへ、横からオクラ氏が口を挟む。
「私は民生事務所へ戻って、四代目のパンゲア地下牢獄長老を定め、クッパプさんを弔う式典の準備をしなければなりませんし、これで失礼させて頂きます」
「そうか。ご苦労じゃのう」
「お仕事ですから」
オクラ氏は、軽く会釈してから、速やかに立ち去った。
キャロリーヌがオイルレーズンに問い掛ける。
「この先は、どうしますのかしら?」
「魔石探しの再開じゃよ」
「オイル伯母さん、どのように探すおつもりでしょうか」
パースリが率直に尋ねた。
オイルレーズンは、眉に皺を寄せて、少し難しい顔をする。
「闇雲に歩き回ったところで、それでは埒が明かぬわい。なにか方策を練るとするかのう」
「一等栄養官さま、お亡くなりになった長老さんを弔う式典があると、先ほどのオクラさんが仰っていましたわ。きっと多くの参列者がお越しになるでしょうから、そこへ行って、皆さんにお尋ねするのは、どうでしょうか?」
「そうじゃな。今は、キャロルの考えた方策が一番よいわい。ふぁっはは!」
この時、また一人、人族の女性が荷物を持って出てきた。住む者のいなくなったケバブ氏の邸宅で、どうやら片付けを始めたらしい。
オイルレーズンが、その者に尋ねる。
「ケバブ女史を弔う式典は、どこで催されるのじゃろうか」
「そういった行事には、たいてい民生事務所の近くにあるパンゲア地下牢獄中央大広場が使われますよ」
「その中央大広場とやらには、どう行けばよいかのう?」
「ご存知ないのですか」
「ふむ。あたしらは、この地下街に今日きたばかりなのじゃよ」
「ええっ、あなたたち六人、ご一緒に!?」
人族の女性が少なからず驚き、その理由を説明する。
「ここに地上からやってくるお方は少なく、一ヶ月にせいぜい一人です。こない時には、半年に渡って誰一人こないことも珍しくありません」
「ふむ」
「それはそうと、民籍登録をお済ませですか?」
「いいや、しておらぬ」
「でしたら、なるべく早く済ませることをお勧めします。登録の必要を知っていながら登録しないなら、捕らえられ、決められた職場で働かされます。登録を済ませるまで、お代を貰えませんよ」
「そうなっては困るのう。民生事務所は、今日はもう仕事をしないようじゃから、明日の一番にせねばなるまい」
このように答えたけれど、当然のことオイルレーズンには、民籍登録をするつもりなど、砂粒の大きさすらもない。
「ところで、中央大広場には、どう行けばよいかのう?」
「あ、そうでしたね。この道を、向こうへ一直線に歩いて、十五分刻くらいです」
「迷わずに着きそうじゃわい。あと一つ、尋ねたいことがある」
「なんでございましょうか?」
「三年と七ヶ月くらい前に、この地下街にきた者を知らぬかのう」
「私は、ここへきてまだ三年になりませんので、それ以前のことは存じません」
「そうか。仕方ないわい」
オイルレーズンは、女性にお礼と別れを告げる。
こうしてキャロリーヌたちが、パンゲア地下牢獄中央大広場へ向かって、道を一直線に進む。