《☆~ 魔石を持つ者(四) ~》
キャロリーヌたちは、二十分刻ばかり歩いた末、長老の邸宅に到着する。
マトンが呼び鈴に手を伸ばすけれど、オイルレーズンが「酷く錆びついておって、まったく使えぬわい」と教えた。それで今度は、扉をコツコツと鳴らす。
「マトンさんよお、そんな叩き方じゃあ、中まで音が届かないでさあ?」
「聞こえないようなら、次はもっと強めればいいのさ。最初からゴンゴンと鳴らすと、迷惑を掛けるおそれもあるのだよ。だから慎重にしないとね」
「がほ。なかなかに深い話ですぜ」
少し待ったところ、扉がゆっくり開いた。獣族の男子が姿を現して、マトンの顔を見上げ「なんど」と尋ねる。
横からオイルレーズンが話し掛ける。
「グラタンじゃな。あたしのことを覚えておるかのう?」
「ひゃい、いらさあまし」
「ふむ。長老に今一度、用があるのでな。入って、よいじゃろうか?」
「ひゃい、どうぢょ」
オイルレーズンが後ろに向かって話す。
「キャロルたちは、ここで少しばかり待っておるがよい」
「分かりましたわ」
「首領、僕もお供しましょうか?」
マトンが積極的に申し出た。
「いいや、その必要はない。調べ物が捗っておるか、長老に聞くだけじゃからのう」
「了解しました」
調べ物というのは、この地下牢獄で暮らす住人のうち、三年と七ヶ月くらい前にやってきた者たちを割り出すこと。その中から、魔石を持つ者が見つかるに違いないと、オイルレーズンは考えていた。
ここへショコラビスケが口を挟んでくる。
「美味い厚切り牛肉を食える場所のことも、忘れずに頼みますぜ!」
「分かっておるわい」
オイルレーズンが、グラタンと一緒に邸宅の中へと進む。
キャロリーヌたちは、他愛のない雑談をして待った。特にショコラビスケが、厚切り牛肉のことばかりを話すのだった。
三分刻ばかりでオイルレーズンが戻り、キャロリーヌが問い掛ける。
「調べ物は、済んでいまして?」
「いいや。まだ始まってもおらんかったわい」
どういう訳かを、オイルレーズンが説明する。三年と七ヶ月くらい前にやってきた者を調べるのは、長老ではなく、民生事務所で働く役人だという。その事務所は四つ刻に始まるので、グラタンが、ケバブ氏の用意した依頼書を持って、そろそろ出立することになっている。最初に一つ刻ばかり掛かると言われたのは、こういう事情によるもの。
「四つ刻までには、あと四半刻あるのう。グラタンが行って戻るには、少なくとも半刻が必要なようじゃから、あたしらは牛肉を食して待つとしよう」
「おうおう、そりゃあ優れた考えでさあ!!」
「うふふ。ショコラビスケさん、よかったですわね?」
「おうよ!」
こうしてキャロリーヌたちは、オイルレーズンが長老から聞いてきた一推しの料理屋へ向かうことにする。そこは「牛肉食堂」という名の食事処で、パンゲア牢獄街で一番に美味しいと評判が高いらしい。
料理屋の場所は、ケバブ氏が図を描いくれたけれど、不得手らしく、とても分かり辛い代物になっている。
それで全世界学者のパースリが、先導の役を担い、図を見ながら進む。
途中に、「小料理屋マトン」という食事処もあった。ショコラビスケが「マトンさんのお店ですかい?」と尋ねるけれど、当のマトンは「あはは、そんなはずないだろう」と一笑にふした。
およそ五分刻、少しも迷うことなく、目的の「牛肉食堂」に辿り着く。
シルキーだけは、朝餉で中空脊柱を沢山食べており、まだ一つ刻しか経っていないので、自ら辞退した。それで彼には、オイルレーズンから、洞窟の天井に地上へ通じる、いわゆる「抜け穴」がないか、調査する役目が与えられた。
オイルレーズンは、朝餉にほとんど手をつけていなかったので、キャロリーヌたちと一緒に料理屋の中へ入る。
ショコラビスケが、待ち切れないので、厚切り牛肉を生のまま、果油を塗って食すことを望んだ。
当然のこと、他の者は皆、しっかり焼いて貰う。それでキャロリーヌたちが食べ始める時には、ショコラビスケが、本当に十枚を食べ尽くしていた。
「俺はまだまだ、さらに十枚でも軽くいけますぜ!」
「そんに沢山を一度に食すと身体に悪いわい。あと五枚でやめておくがよい」
「へいへい。取りあえず、それだけで我慢するでさ」
ショコラビスケは渋々従うことにして、追加を注文する。他の者たちは、少なからず驚くと同時に、竜族が持つお腹の強さを思い知った。




