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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》パンゲア地下牢獄を巡る騒ぎ
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《☆~ オイルレーズンの行動(四) ~》

 ピーツァがオイルレーズンを背負って移動すること、おおよそ三分刻(ミニト)のところ、縦に細長く建てられた小屋の前に着く。ピーツァは、十日ほど前から、ここで小麦の粉挽こひき労働をしているという。

 オイルレーズンが地面に降り立ち、周囲を見渡す。空間は起伏に富んでおり、この辺りは洞窟の天井がわりと低いため、建物が上方の壁に届いている。


「小麦は昇降機リフトで運び込まれておるのか?」

「いんや、こんが場所に小麦さがねえがおす」

「それならば、どこにあるのじゃな?」

「あっしは知らぬがおっす」

「知らぬのか??」

「がおす」


 どういう訳かを、ピーツァが説明する。ここでの仕事は、小屋の真ん中に立っている太い軸を、数人が力を合わせて回転させること。つまりピーツァたちは、いわゆる「縁の下の力持ち」に過ぎない。

 オイルレーズンは得心した。上に別の部屋があって、そちらで小麦が粉にされているということ。


「ところでピーツァよ」

「がおす?」

「長老の邸宅はどこじゃろうか?」

「こんが道さ真っすぐに進むが、長老さ邸宅がは、すぐ分かるがおす」

「そうか、助かったわい」

「がおす!」

「ふむ。それから一つ、忠告しておくとしよう。パンゲア帝国の機密は漏らさぬ方がよい。王室の者に知られると、おそらく首を跳ねられるじゃろうから」

「が、がおっす!!」

「さて、これは案内してくれた謝礼じゃ」


 オイルレーズンが銀貨を一枚差し出す。

 ピーツァは大喜びして、「がおーっす!!」と叫ぶ。なにしろ、朝から夕刻まで働いて得られるのと同じ稼ぎが、僅か数分刻のうちに手に入ったのだから、それも無理のないこと。


 長老の邸宅は近くにあって、本当にすぐ分かった。なにしろ、「長老」と書いた木製の札が扉に貼りつけてあるのだから、間違えるはずがない。

 呼び鈴を鳴らそうとしても、酷く錆びていて音はまったく出なかった。仕方なく扉を叩いたところ、小妖魔の稚児チャイルドが姿を現す。

 オイルレーズンは、その者を見下ろして、ゆっくり問う。


「長老は、おるかのう?」

「なんど」


 なまりの強い獣族の言葉も分かり辛いけれど、幼い小妖魔との会話も同じく、なかなかに厄介である。


長老エルダの意味は、分からぬかのう?」

「えるだ?」

「そうじゃとも。あたしゃ、長老に用があるのでな、取り次いでくれぬか?」

「えるだ?」

「この邸宅の主人マスタじゃよ。おるかのう?」

「ますた??」

「それも分からぬのか。困ったものじゃわい……」


 話がまったく通じないので、オイルレーズンは辟易させられた。

 ここへ、白頭鷲ボールドイーグルが飛んでくる。


「おおシルキーか。思いの外、早かったのう」

「きゅい!」

「それで、様子はどうじゃな?」


 オイルレーズンから状況報告を促されたので、シルキーは、確かめてきたことをありのままに伝える。その話によると、キャロリーヌたちは、今なお、斜面スロウプを造るために、たいそう苦心しているらしい。


《先に、キャロルたちのところへ向かうとするかのう》


 オイルレーズンは、長老との面会は後回しにするのがよいと考えた。

 扉の内側にいた小妖魔の姿が、いつの間にか消えているので、開きっぱなしの扉を閉じようとする。

 ここへ、人族の老婆が出てきた。この者は、菫色の(ヴィオラシャス)婦人服(‐ロウブ)を纏っており、目を細めて、問い掛けてくる。


「どなたでしょうか?」

「あたしゃオイルレーズン、魔女族ですわい。一つ用件があって、こちらへ伺ったのじゃけれど、先ほど応対してくれた稚児に話が通じないで、とても困っておったところですわい」

「ああ、キッシュね。あの子は、お使いに行かせていますわ」


 これを聞いたオイルレーズンは、胸の内で、「まだまともに会話もできないような幼い者に、お使いなぞ務まるものじゃろうか」と思うのだった。


「キッシュはね、まだまともな会話ができない稚児ながらも、麺麭パン野菜汁ヂュースを受け取り、ちゃんと持ち帰りますわよ。ぬふふ」

「ふむ。ところで、そなたが長老でしょうかのう?」

「ええそう、仰る通り。この私は、三代目のパンゲア地下牢獄長老、クッパプ‐ケバブですわ。ぬっふふふ」


 皺の多い老婆が、その顔に怪しげな笑みを浮かべている。

 こうなったからには、長老との面会を今さら後回しにする訳にはいかない。ケバブ氏にいざなわれ、シルキーとともに邸宅の中へ進む。

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