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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》パンゲア地下牢獄を巡る騒ぎ
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《☆~ オイルレーズンの行動(二) ~》

 上級要人部屋を出て、かれこれ十分刻(ミニト)が過ぎた。

 なかなかに強い日の光がある道、心地のよい風と香りが流れてくる。この爽やかな景色を前にして、オイルレーズンは、ふと小麦に思いを馳せる。

 現代では、小麦それがグレート‐ローラシア大陸の至るところ、色々な料理に使われているけれど、この辺りが発祥の地である。大昔からここに住んでいるコナ民族たちは、一番の食材として大切にしてきた。

 第十の月に種を蒔き、翌年の第七月が終わる頃、刈り入れを始めるという。つまり今、収穫の時期を迎えている。


「実りは、どのような具合じゃな?」

「今年も大豊作にございます」


 ミルクドは嬉しそうに答え、立ち止まる。

 目的地に到着したということ。足元に、下へ向かう階段がある。


「こちらを下りまして、真っすぐに進みますと、扉がございます。その奥深くに、()()()がございます」

「ご苦労じゃった」

「本当に、地下へ赴かれるのでしょうか?」

「もちろんじゃとも。それがために、案内を頼んだのじゃから」

「畏まりました。どうかご無事で」

「ふむ」


 階段の下へ、オイルレーズンとシルキーが慎重に進む。ミルクドは、直立不動の姿勢で見送った。

 これから向かうパンゲア牢獄街は、今なお、謎に包まれている。若い頃、オイルレーズンは、全世界ユーニヴァース学者(‐スコラ)だった叔父のディグ‐ハタケーツから話を聞いたことがある。その地下街が、どのような経緯で作られ、多くの人がどのように閉じ込められたかを教えて貰った。でも、それは僅かばかりを知ったに過ぎない。

 数日前、ミルクドが自ら進んで、パンゲア牢獄街のことをオイルレーズンに打ち明けた。先ほど、機密に関わることも話してくれた。少なからず敬意を示す証に違いない。あるいは彼女がメルフィル家に働いた、過去の酷い行為に対する()()かもしれない。

 兎も角、昇降機が地下へ通じているという情報を得ることができたのは、大きな意義があると言えよう。


 階段の下、扉から中へ入ってみると、奥に別の扉があった。さらに進んで、扉をいくつも越えたところ、殺風景な部屋に辿り着く。壁の一つが太い鉄製の格子で、牢獄を思わせるところだった。

 格子の外側に衛兵が立ち、こちらを険しい表情で見つめている。

 オイルレーズンとシルキーは、黙って通り過ぎようとする。


「待て!」

「なんじゃな?」

「婆さんは、()()()に用があってきたのだろう?」

「そうじゃとも」


 オイルレーズンが衛兵を睨む。

 しかしながら、相手は臆する様子を見せない。


「だったら、尋ねたいことがあるだろう?」

「尋ねることなぞ、一つとしてないわい」

「ここへやってくる者は、決まって金貨と出口について尋ねるが、そうしなかったのは、婆さんが初めてだ」

「じゃからといって、どうかするのかのう?」

「どうもしない。だからさっさと行け!」

「お前さんに呼び止められておらなんだら、とっくに行っておったわい」

「な、なんだとぉ!!」


 格子の向こう側で衛兵が怒鳴り始めたけれど、オイルレーズンたちは、彼に背を向け、さっさと部屋を後にする。

 通路を歩きながら、一昨日の夕刻にキャロリーヌたちがどのような状況だったのか、シルキーに教えて貰う。

 引き続き、いくつか扉を越えたところ、薄暗い街が現れた。


「ふむ、ここがパンゲア牢獄街じゃな」

「きゅい」


 目前に原っぱがあり、その向こう側に、いくつか小屋が並んで建っている。ぼんやりと明かりが漏れているから、誰か住んでいると推察できた。

 突如、オイルレーズンの脹脛ふくらはぎに、激しい痒みが走る。平たい塊が怪しげに動いているのだった。


「なんじゃ!?」

「きゅっ!!」


 咄嗟にシルキーが飛び掛かり、嘴で突いて払い落とす。

 黒っぽい蒼色をしたそれは、原っぱの方へ素早く走り去る。その姿から、大王蠍だいおうさそりと呼ばれる毒虫だと分かった。


「よくぞ退治してくれたわい!」

「くうっこぉ」


 謙遜しながらも、シルキーは誇らしげな顔を見せた。

 一方、オイルレーズンは落ち着きを取り戻す。


「それはそうと、先に魔石を探し出すか、それとも、キャロルたちと合流するのがよいじゃろうか。果たして、どちらを選ぶか……」


 少しばかり考えた上で、最善と思える策を得る。


「キャロルたちの様子を、確かめてきてくれるかのう?」

「きゅい!」


 シルキーが承知して、すぐに飛び立つ。

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