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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》後戻りのできない艱難辛苦
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《☆~ 地下迷宮にある脅威 ~》

 洞窟内だから、暗いせいで夜の明けたことも分かりにくい。地上では、いつものように大空は晴れ渡り、日の光が暖かく満ちているはず。

 ジャンバラヤ氏が、一つ刻ほどの短い眠りから醒めた。安眠豆の効果があり、それでも十分だという。

 四番目のマトンは、自ら辞退を申し出る。


「朝を迎えているから、このまま起きているよ。探索に出て三日くらい寝ずに過ごすことなんて、この僕にとっては珍しくもないのでね」

「あらまあ、そうですの!?」


 驚くキャロリーヌの横から、パースリが話し掛けてくる。


「マトンさん、不眠豆を服用されますか?」

「いいや、平気だよ」

「それでは、今夜は一番に寝て下さい」

「是非、そうさせて貰うとしよう」


 素早く朝餉を済ませ、再び歩く。休憩する時間も惜しんで先を急ぐ。

 中深層は、進むにつれて複雑に入り組む箇所が多くなるため、脇道の奥へ迷い込んだら、彷徨い続けてしまう。そうなった場合、疲れ果てたところを吸血鼠に襲われるか、水と食料が尽きるかして、たいていの者が命を落とす。

 一行は、パースリが準備してきたマプで調べ、正しい道を選べている。


 このアラビアーナ魔窟の奥深くへ足を踏み入れる探索者イクスプローラにとって脅威であるのは、なにも地下迷宮ダンヂョンや吸血鼠に限った訳でない。魔獣および魔植物ましょくぶつこそ本当におそろしい存在なのだと、パースリが教えてくれた。

 キャロリーヌは、これまで魔獣に遭遇した経験など一度もなく、魔植物については初耳である。当然のこと、質問せざるを得ない。


「それは一体、どのような植物ですの?」

「二つの種類があります。一つは吸気きゅうき魔植物と呼ばれていて、動物の生気ヴィガを吸うことで大きく育つ植物です」

「怖いこと!」

「小妖魔が弱った人族の魂を吸い取るという、おかしな噂は、吸気魔植物の話が元になったのではないかと、ボクは考えています」

「そうですのね。もう一つは、どのような?」

「人食い魔植物です」

「ええっ、()()()!?」


 この時、ショコラビスケの肩に乗っているシルキーが、「きっ!」と鋭い声を発する。それで最初にマトンが立ち止まり、警戒しながら前方に視線を向ける。

 他の者たちも、歩みを止めて身構える。各自の見据える先には、妖しい緑色の光が二つあった。


「おうおう、ありゃ虎の目玉じゃねえか!」


 ショコラビスケの言う通り、それは他でもなく、剣歯虎セイバタイガの瞳が放つ強い輝きなのだった。

 ジャンバラヤ氏は、とっくに気づいており、鎖鎌を握る手に力を込めていた。

 マトンも俊敏に剣を構え、パースリの前へ駆け出す。


「キャロル、ヴィニガ子爵、少し後ろへ!」

「分かりましたわ」

「そうします」

「ショコラ、二人の安全ことを頼む」

「おうおう、了解ですぜ!」


 自信に満ちた表情のショコラビスケである。

 その一方で、ジャンバラヤ氏がキャロリーヌに問い掛ける。


「死鏡に守られているのだろ?」

「いいえ。まだ試作品ですので、大きな獣に効果はありませんの」

「だったら、このオレさまが、命懸けで守ってやる!」


 威勢のよいジャンバラヤ氏に、キャロリーヌが素直な言葉を返す。


「ありがとうございます。でも、お気をつけになって」

「百も承知だ!」


 ジャンバラヤ氏も、自信の大きさでは、ショコラビスケに引けを取らない。

 しかしながら、緑色の輝きが接近していた。


「ガアァーッ!」


 剣歯虎が咆哮し、お馬の縦幅二つ分を、一跳びで詰め寄る。

 ジャンバラヤ氏は、よろめいてしまい、右の膝頭ニーキャプを地面につける。辛うじて転倒を免れるけれど、すぐ目の前に、長い牙を持つ魔獣の姿があった。


「ガルルゥ~~」

「えいっ!」


 悪い体勢のまま、鎖に結ばれている銅の塊を、渾身の力で投げるけれど、剣歯虎は軽々と身をかわし、再び跳び掛かってきた。

 ジャンバラヤ氏の胸は、言葉の一切を使っても表わせない、とても異様な感情で埋められる。これが彼にとって、生まれて初めて覚える「恐怖心」となる。

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