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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》後戻りのできない艱難辛苦
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《☆~ 迷宮の中深層(四) ~》

 これまで数え切れないくらい沢山の亜人類が、中深層ミドルデプス下り坂(‐ディセント)と名づけられた、この険しい崖を滑り落ち、あっけなく命を落としてきたという。

 そんな難所の着地点、ショコラビスケが座り込んでいる。辛うじて死を免れたけれど、硬い岩が繰り返し激突し、左右とも足の骨が砕かれた。立ち上がることもできず、痛みに耐えながら、背負子に寄り掛かって助けを待つしかない。

 そればかりか、吸血鼠ブラディラトの群れが、追い打ちを掛けるかのように迫りくる。いわゆる「泣きっ面に蜂」のような状況になってしまった。


「厄介な連中が嗅ぎつけてきやがったなあ。がほほ……」


 苦い表情で愚痴を溢しながらも、肩に掛けていた背袋リュックの中から、いくつか布きれを取り出す。


「早速、これを使う事態トラブルだぜ、まったくよお」


 パースリが購入してくれた火打ちを使い、布きれの一つを燃やす。この策が功を奏し、鼠どもは、炎をおそれて、そう簡単には寄りつけない。

 しかしながら、敵たちも、小さいけれど鼠なりの頭を使い、ショコラビスケの左右から背後へ回り込んで、襲撃の機会チャンスを窺っている。尤も、これは想定していた範囲内のこと。残りの布きれに火を点け、周囲を炎の砦とする。

 こうして、数百匹の吸血鼠と、竜族一人の睨み合いが始まった。

 やがて、布きれは燃え尽きてしまい、辺りに焦げた匂いが漂う。炎が消えることを知った鼠どもが、いっせいに、ショコラビスケの巨体に飛び掛かるのだった。


「がほっ!」


 足や背中に噛みつく吸血鼠を、ショコラビスケは、両手で必死に払い飛ばす。

 それでも、敵の群れは大きく、一匹を退治しても、また別の一匹が食らいついてくるので、とうてい埒が開かない。

 じんじんとする左右の足、吸血鼠の歯によって容赦なく噛み破られた皮膚、および「シラタマジルコに申し訳ない」と悔いる胸の内。これらの激痛を感じながら、ショコラビスケは、ついに覚悟を決める。


「俺の命も、最早ここまでだぜ。シラタマのあねさんよお、救い出せてやれなくて、済まねえこった……」


 観念で目を閉じようとしたところ、突如、まばゆい光が生じる。

 ショコラビスケが「がっほ!!」と驚いて顔を上げると、剣を握る男の姿があるのだった。


「ショコラにしては、諦めが早いなあ」


 マトンが笑いながら、彼の愛剣、イナズマストロガーノを片手で操って、剣先から雷金光ライトニングを放つ。

 鋭利なそれが、ショコラビスケの身体に食らいつく鼠どもを、次々と落としてくれる。加えて、鋭い風切りの音が鳴り、もう一人、男が駆け寄った。


「少しばかり遅れてしまったが、このオレさまが到着したからには、お前の命は救われたも同然だ!」

「おうおう、ジャンバラヤさんも、助けにきてくれたのかよ」

「ああそうだ。黙って見ておけ!」


 鎖鎌が宙を舞い、強い空気圧の力で、飛びついてくる鼠どもを切り飛ばす。

 僅か一分刻(ミニト)ばかりのこと。あれだけ多くあった敵の姿が、ショコラビスケたちの周りから消え失せるのだった。


「マトンさん、ジャンバラヤさん、迷惑を掛けちまったぜ……」

「窮地に陥った面子フェイスを救うのは、集団パーティを組んでいる者の務めだよ」

「剣士殿、その通りだ!」

「ありがとよ、お二人さん。がほ」


 ショコラビスケが、思わず涙を溢す。


「泣くほど、傷が痛むというのかい?」

「いやあ、そいつは違いますぜ。俺さまは嬉しいのでさあ。こうして死に際を、仲間に見届けて貰えることがよお」

「こらショコラビスケ、お前、それでも誇り高い竜族の男か!」

「ショコラ、気を確かに持たないといけないよ」

「だけどよお、さすがの俺さまでも、毒が回ってきて、身体の感覚が、ずいぶんと薄れちまってるでさあ……」

「それは不味いことだ。しかし、もう少しだけ耐えろ!」

「やれやれ、あと一つ、仕事が必要だね」


 マトンが傍に転がっている背負子を拾い、坂道を勢いよく駆けて上がる。

 吸血鼠の毒というのは、それほど強くはないけれど、今のショコラビスケには、沢山の噛み痕がある。早く治癒を施さなければ、いかに頑強な身体が自慢の竜族といえども、危険な状態を迎えるに違いない。

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