《☆~ 魔女族の訪問(一) ~》
キャロリーヌは、邸の近くにある墓地に新しい墓穴を掘ることにした。
これで三つ目となる。最初の二つを掘ったグリルを、この新しい穴へと埋葬しなければならないのである。
先ほど息を引き取ったばかりの父、その亡骸はとても軽い。
ほとんど骨と皮という状態なのだから、十六歳の少女でも、楽に運ぶことができるのだった。そのことが悲し過ぎる。しかも炎を吐いて絶命するなど、あまりに気の毒な最期の瞬間を思い返すと、とてもやり切れないではないか。
人を寝かせられる形の墓穴に、無言のグリルを横たえさせる。彼の痩せた胸の上に、使い残している竜隨塩が入った小瓶を置く。
そしてキャロリーヌは、涙を流しながら土を被せるのだった。
夜を迎えて辺りが暗くなり、寂しさがぶり返してきた。
泣きやんではまた泣き、落ち着いては再び涙を流す。この繰り返しが、数え切れなく続いている。
「ああ、お父さま、お母さま、そしてトースター、どうして、そんなにも早く、逝かなければならないの。あたくしも、同じようにもう、死んでしまいたい……」
啜り泣きが、しばらくやまないのだった。
邸の外、穏やかな空に星の景色が広がっている。高いところにある蒼い月が、闇に染められた平原を、仄かに照らしている。
一人ぼっちになってしまったキャロリーヌには、長い鎮魂の一夜である。
朝を迎え、お馬がいななく声が聞こえ、目を醒ますことになった。
「あっ、ファルキリーのことを忘れていましたわ!」
寝台から飛び出し、すぐ馬小屋へと走った。
いつでも水と飼葉を得られるように、それぞれの桶が白馬の前に置いてあるけれど、水桶の方は今にも底を尽きそうで、とても飲み辛くなっている。
「ごめんなさいね。すぐに新鮮なお水で満たしてあげますわ」
キャロリーヌは、水桶に残っている古い水を捨て、井戸から汲んだ清らかな水を、そこへ注いだ。
ファルキリーが嬉しそうに飲み始める。
「お父さまを亡くした悲しみのせいとはいえ、あなたを放って置いてしまうなんて、あたくしは人族として、あまりにも愚かな者です……」
キャロリーヌは自省の言葉をつぶやきながら、飼葉桶にも、宮廷から配給されてくる高級な飼葉を、高く盛ってやった。
それからの二日間を、キャロリーヌは水だけで過ごした。
三度目の朝となり、ようやく保存食の乾麺麭を口に入れる。
「お父さまたちは、なにも食べることができなくなり、空腹のまま眠っておられるというのに、あたくし一人、このように……」
突如、邸の扉を叩く音が響く。
「あら、もしや!」
キャロリーヌはあわてて立ち上がり、扉のところへと走った。
期待に溢れた表情をして、そこをゆっくりと開く。
でも扉の外には、キャロリーヌの思い描く長身の貴公子などおらず、自身と同じほどの背丈をした老婆がポツリと立っているのだった。黒生地の衣装に白い前掛けがつけられた、いわゆる仕事着の姿である。
「えっと??」
「おおラムシュや」
「あの、どちらさまでしょう。あたくしの名はキャロリーヌですわ」
「おおそうじゃ、キャロル」
「はい、あの、それであなたさまは?」
「そうか覚えては、おらぬのじゃな。あたしゃオイルレーズン、魔女族じゃ」
「魔女ですの?」
「そうじゃ、死に損ない魔女のババアといったところかのう。ふぁっはははぁ、あががぁ、顎が、顎が痛くなってしもうたわ。歳は取りたくないものじゃ。ふぁっははは! あがぁ、顎が、顎が痛い!」
老婆が苦痛で顔を歪めている。
この突然の事態に驚き、キャロリーヌは少しあわててしまう。
「まあまあ、大変ですわ! お婆さん、しっかりなさって!!」
「いや大事ない。いつものことじゃ。ふぁっはっは。あがぁ、顎が!」
「はあ、そうですか……」
魔女族に知り合いはいないため、どうして、このように奇妙な老婆が訪問してきたのか、まったく合点のゆかないキャロリーヌである。