表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》後戻りのできない艱難辛苦
208/438

《☆~ 迷宮の中深層(二) ~》

 一行は、順番に尋問を受けることとなる。

 その最初、キャロリーヌが座席に腰を下ろしたところ、尋問官を務める小妖魔のペスカトーレが、早速、決められた通りに問う。


「名前、年齢、出身地、職業、好む料理名、答ええ」

「あたくしの名は、キャロリーヌ‐メルフィルですわ。歳は十六。ローラシア皇国中央の出身で、皇国宮廷三等官の任に就いております。好きなお料理は、沢山ございます」

「一つだけ、答ええ」

「たった一つですの?」

「規則、従え」


 ペスカトーレがキッパリと言い放つ。

 彼の視線が少なからず険しこともあり、キャロリーヌは困惑する。


「どう致しましょう。先ほど初めて食しました小麦の粉汁焼きは、たいそう気に入りましたし、一昨日の蛸焼きも、好みの一品ひとしなですわ。あと、真雁の煮込み、鴨しゃぶ鍋、蜜滴みつたらし団子だんごも、美味ですもの……」

「まだるっこえ! ずっと好む料理名、答ええ!」

「あ、済みません。それでしたら、銀竜鯰ぎんりゅうなまずのソテーですわ」

「尋問、終わり、交代せえ」

「はい」


 ショコラビスケの番となる。


「名前、年齢、出身地、職業、好む料理名、答ええ」

「俺さまの名前は、ショコラビスケ、三歳だ! 出身はドリンク民国南部地方の街、パンプキン。職業は新進気鋭の(アパンカミング‐)探索者イクスプローラ。料理なら、なんでも食うけれど、特に肉が大好きだぜ。がっほほほ!」

「料理名、答ええ」

「だから、肉料理でさあ」

「料理名!」

「それなら、炒め蜂(フライ‐ビー)だ!」


 威勢よく答え、鋭い視線を向ける、巨体のショコラビスケ。

 それでもペスカトーレが動じることはなく、職務遂行に努める。


「尋問、終わり、交代せえ」

「分かったぜ! がっほほほ」


 笑って席を立つ彼に、マトンが話し掛ける。


「肉料理というのは料理の分類だから、料理名ではないだろ」

「そりゃそうですぜ、がほほ!」


 次のパースリは、慣れていることもあって、すぐに済んだ。

 それから、ジャンバラヤ氏、マトンの尋問が順に行われ、中深層ミドルデプス下り坂(‐ディセント)へ入場する許諾を得ることができた。


「シルキーさんは、よろしいのでしょうか?」

「話せる者だけに決まっているのだよ。鷲と話せるのは、せいぜい魔女族くらいだからね」

「それも、そうですわね。うふふ」


 会話のできない相手なので、尋問できないのも当然のことと、得心に至るキャロリーヌだった。

 ここには、協会ギルドに属する小妖魔の店があり、旅に役立つ道具アイテムや保存食など、色々と売っている。双眼鏡および頑丈な背負子を一つずつと人数分の杖を、パースリが購入する。ジャンバラヤ氏も、備えのために、襟巻き(スカーフ)と火打ちを買った。

 背負子にシルキーを乗せ、ショコラビスケが担ぐ。

 一行は、ペスカトーレに見送られ、入場門を越えた。すぐ傍に、急な傾斜の坂道が始まっている。先頭のパースリと最後尾のジャンバラヤ氏が、松明トーチに火を点け、辺りを照らす。


「皆さん、杖を使い、慎重に下ってゆきましょう。足元が崩れないように、気を配りながら、一歩ずつゆっくり進むことが大切ですよ」

「パースリさんよお、分かっていますぜ。がほほほ」


 綽綽しゃくしゃくの余裕顔で答えたショコラビスケだけれど、その油断がよくない。


「がぁ、ほっ!!」

「きゅー!」


 巨体が大きく揺れ、坂の下方へ向けて滑り出す。驚いたシルキーは、咄嗟に空中へ羽ばたく。

 彼らの身の上に起きた、突発の事態を目の当たりにしたことで、キャロリーヌも動揺せざるを得ない。


「ショコラビスケさん! シルキーさん!」


 この次の瞬間、キャロリーヌの身体がよろめき、大きく姿勢が崩れる。


「ああっ!」

「キャロル!」


 マトンが叫び、敏速に、開いていた方の手を伸ばす。

 間一髪のところ、キャロリーヌの腕が掴まれ、どうにか第二の滑落者を出さずに済むのだった。一呼吸でも遅れていれば、キャロリーヌは、ショコラビスケたちを見舞ったのと同じ事態に陥ったはず。


「ふぅ~、危なかった」

「お助け下さり、ありがとうございます」

「無事で、なによりのことだよ」

「九死に一生を得ましたわ。でも、ショコラビスケさんとシルキーさんが、滑り落ちてしまわれ……」


 険しく切り立った崖のような坂道の先が、あまりに暗いため、キャロリーヌの目では、彼らの姿を捉えることなど叶わない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ