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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》後戻りのできない艱難辛苦
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《★~ 生き別れになった姉 ~》

 ジャンバラヤ氏の左手に、長い鎖の端が少しばかり垂れ下がっている。銅の塊が結びつけてあり、それをクルクルと回して、風切りの不気味な音を鳴らす。

 対するマトンは俊敏だった。愛剣、イナズマストロガーノを抜いて構える所作に無駄はなく、砂粒の大きさすらも隙を与えない。

 いわゆる「臨戦態勢」となった二人の間、キャロリーヌが意を決する。


「マトンさん、ジャンドリアさま、どうか」

「ジャンバラヤだ!」

「あっ、あたくし、申し訳ございません!!」

「間違うなよ」

「はい、二度と」


 キャロリーヌは、深々と頭を下げる。


「あの、それで、どうか争いを、おやめ下さいまし」

「どうする、剣士殿」

「キャロルの言葉に従うよ」


 マトンは、剣を鞘に戻した上で、静かに着席する。

 丁度ここへ、ケトルが小麦粉汁焼きの材料などを運んでくる。


「えらっさぁ。鎖鎌のお旦那さん、今夜はなんでござい?」

()()()()を頼む」

「へえへえ!」


 こうして、夕餉の席にジャンバラヤ氏が加わることとなった。

 狭くなるので、彼は、ショコラビスケと一緒に隣りの円卓へ移る。


「なあジャンバレルさんよお」

「ジャンバラヤだぁ!!」

「おうおう、済まねえぜ」

「どいつもこいつも間違えやがって!」

「それより、なにを注文したのですかい?」

魚介類スィーフードの混合(‐ミクスチャ)だ」

「そりゃあ一体なんですかい?」

「知らないのか。烏賊、鞍紋貝、大海老、山椒魚の四具材クワトロで焼くのだ。この店で、一番に美味い」

「確かに美味そうですぜ!」


 隣りの円卓では、シルキーが椅子の上に乗り、運ばれてきた鴨の生肉を、キャロリーヌに食べさせて貰っている。その一方で、ケトルが熱鉄板に菜種油(カノーラ‐オイル)を薄く塗り、小麦粉汁焼きの調理を始めていた。

 ジャンバラヤ氏が、ショコラビスケに尋ねる。


「あの剣士殿は、キャロリーヌ嬢に惚れているのか」

「へっ、そりゃあ本当ですかい??」

「オレさまが聞いているのだ!」

「竜族の俺には、人族が胸の内に秘める気持ちなんて、分かりっこねえぜ。ジャンバラヤさんは、どうしてそう思うのですかい?」

「さっきの剣幕を見りゃ、たいてい想像がつくだろ」

「おう、言われてみると確かにな! 普段は口にしない、()()()ってえような、品のよくない言葉をお使いでしたぜ」


 隣りの円卓から、マトンが話に割り込んでくる。


「余計な勘繰りは、そこまでにしてくれないかい?」

「なんだ、聞こえていたのか」

「こんなに近いからね。聞こえない方がおかしい」

「それもそうだ」

「ヴィニガ子爵に、なにか用でもあったみたいだけれど」

「はぁ??」


 釈然としないジャンバラヤ氏である。


「そのことですけれど、ボクは結婚して、ヴィニガ家を継いだのです」

「だから子爵か。おめでとうコングラチュレイションとだけ述べておこう」

「ありがとうございます」

「それでパースリ、さっきの話の続きだ。お前、パンゲア牢獄街に通じる道を探しにきたのだろ?」

「……」


 パースリは、考え込む様子を見せた。今回の作戦行動は隠密が重要なので、たとい相手が知り合いでも、詳しいことを教えてはいけない。

 そんな彼に代わり、マトンが応じる。


「あんたこそ、どうしてパンゲア牢獄街に、ご執心なのだい?」

「……」


 今度はジャンバラヤ氏が、下を向いて黙り込む。

 それでパースリが答えようとする。


「彼には、お姉さんがいましてね」

「待て待て!」


 ジャンバラヤ氏が咄嗟に顔を上げ、両手を横に大きく振る。


「オレさまの姉のことは、オレさまに話させろ!」

「あ、どうぞ」

「オレさまには、生き別れになった姉がいる。名はラディシュグラッセだ」

「魔女族でいらっしゃいますのね?」

「そうだ。そればかりか、パンゲア帝国の先代王、バゲット三世の第四フォース王妃(‐レディ)という立場でもあった」

「あら、そうですの!?」

「そうだ。そればかりか、今は行方不明になっている」

「まあ、お可哀想に!!」

「そうだ。そればかりか、今はパンゲア牢獄街に押し込められている」

「居場所が判明しましたのね?」

「それは違う。表向きとしては、まだ行方不明のままだ。姉はパンゲア牢獄街にいるはずだが、それを確認する術はないのでな」


 ここまでを聞いて、マトンは得心に至る。


「要するにジャンバラヤ殿は、お姉上を見つけ、連れ帰りたいのだね?」

「そうだ。だからパースリがパンゲア牢獄街に通じる道を探しにきたのなら、このオレさまを同行させて欲しい」

「どうしたものかな?」


 マトンがパースリに問い掛ける。


「判断は、マトンさんにお任せしましょう」

「こんな場合に、オイル婆さんなら、《旅は(フェロウ)道連れ(-トラヴラズ)、一緒にゆくとするかのう》とでも、仰るだろうね」

「では、オレさまの同行を認めてくれるのか?」

「そのつもりだよ」


 こうして、集団パーティにジャンバラヤ氏が加わることとなる。

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