《★~ 地下迷宮の入場門 ~》
逃げる宝石泥棒を追ってきたパースリとショコラビスケは、いくつかある脇道の一つに入ったところで、奇しくも、見失ってしまう。
少し先に行くと、地下迷宮の入場門がある。番人を務めている小妖魔のオイスタに尋ねたけれど、期待に反して、なんの手掛かりも得られない。
「あの盗人、どこへ行きやがったのですかねえ、まったくよお」
「魔女族は、たいてい飛行できますから、空へ逃げたと考えられます」
「そういうことですかい」
二人が広い道に戻ったところ、突如、一頭の水牛が突進してきた。
「ぬおおーっ!」
「がっほ!!」
ショコラビスケが自らの巨体を盾にして、パースリを庇う。弾き飛ばされそうになったけれど、よく耐えて、猛る牛を止める。
竜族と水牛が固く組み合って動かなくなっているところに、キャロリーヌとマトンがやってきた。
「あら、大きな牛さんですわ!」
「そうだけれど、ショコラは、こんな道端で一体どうして、牛を相手に力比べのような真似をしているのだい?」
この質問に、パースリが青ざめた顔で答える。
「いきなり水牛が、こちらに向かって暴走してきました。それで、ショコラビスケさんが前に出て、窮地を救ってくれたのです。もしボクが激突されていたら、ボクの腕や足などは、複雑な骨折を被ったに違いありません」
話を聞いたマトンは、牛と圧し合いを続けるショコラビスケに話す。
「兎も角、そこまでにしたらどうだろうか? 二人とも怪我はないようだし、牛に悪気はなかったと思うよ」
「言われてみると、その通りですぜ。がほほ」
得心したショコラビスケが、牛の両肩から手を離し、謝罪する。
「済まなかった。この俺さまにだって、悪気はないぜ」
「ぬお~」
自由を取り戻した水牛は、一つ声を発し、急ぎ走り去った。
それを見送りながらマトンが言う。
「この辺りは、水牛のみならず、色々な獣が出没するから、気をつけないとね」
「はい。あたくし、用心しますわ」
「そういう心掛けが大切だよ」
マトンは、この意見に続けて、「本当の危険は、地下迷宮の深層にこそ、多くあるのだよ」と話しそうになるけれど、喉元で飲み込む。
ここにショコラビスケが割り込んでくる。
「マトンさんよお、宝石泥棒の魔女族は、どうなったのですかい?」
「彼女は自分の邸宅に帰ったさ。六系統にして貰った魔石の方は、この通り無事だったよ。キャロルが取り戻してくれたのさ」
マトンは、喜びの表情を見せて、賢者の石をパースリに手渡す。
一方、ショコラビスケが、キャロリーヌの腕の中を覗き込む。
「それはよかったですぜ。でもシルキーは、どうして眠っているのでさあ」
「雷金光の昏睡呪縛ですの。あたくしの身代わりとなるようにして、このシルキーさんが、犠牲となってしまいました」
キャロリーヌは、涙ぐみながら、シルキーの身に起きた事件の一部始終を話して聞かせる。そして、昏睡呪縛を解くためには、覇王樹の果実を購入して、その汁を飲み込ませる必要があることも伝えた。
「地下迷宮で商売をしている小妖魔の中には、ボクの知り合いも多くいるから、覇王樹は、きっと見つかるよ」
「それは心強いですわ」
「がほほ。それなら早速、迷宮に入りましょうぜ!」
こうして一行が入場門へと進む。
アラビアーナの地下は、小妖魔の協会が管理しており、そこへ入るには、人族と魔女族なら金貨二枚、竜族と獣族は金貨三枚を支払うように決められている。
番人を務めるオイスタに、キャロリーヌが問い掛ける。
「白頭鷲の入場には、おいくら必要ですの?」
「死んどる鳥は、払わんでえがっさ」
「シルキーさんは、生きておられますわ。今は眠っておいでなの」
「眠っとるだけっさか!!」
「はい」
「ほっさあ、銀貨六枚であい」
「ボクが纏めてお支払いします」
懐から巾着を取り出しながら、パースリは話を続ける。
「この白頭鷲が、後日ここに戻ってきたら、問答無用で通行をお認めになって下さい。謝礼として、銀貨十四枚を追加で支払っておきましょう」
「えがっさ、あいあい!」
オイスタは、喜んでお代を受け取った。
入場門が開かれ、キャロリーヌたちが地下迷宮に足を踏み入れる。




