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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》アラビアーナの地下迷宮
200/438

《☆~ 餞別 ~》

 まだ悲しみの谷底で彷徨さまようキャロリーヌに、マトンが、一つの方策を持ち掛けようとする。


「ねえキャロル、キミだってオイルレーズン女史のように、治癒ヒーリング魔法(‐スペル)を使えるはずだよね。それを試してみたらどうだろうか」

「はっ、はい! そうでした!!」


 動揺のせいで、キャロリーヌは、魔法それをすっかり忘れていた。

 魔女族として、未熟さを痛いくらいに感じるけれど、今は少しでも早く治癒を施すのがよい。気を取り直し、強く願って詠唱する。


回復リカヴァリ! 目をお醒ましになって!」


 ところが、腕の中でシルキーの身体には、なんの変化も生じない。

 マトンが心配そうな表情で問い掛ける。


「うまくいかないの?」

「……」


 手遅れなのかと思って、希望を失いそうになる。

 しかも、追い打ちを掛けるかのように、冷酷な言葉が届く。


「無駄なことだよ」


 キャビヂグラッセが地面から立ち上がって、よろめきながら近づいてきた。

 マトンが背中の鞘から剣を抜いて構える。俊敏な動きだった。

 しかしながら、キャビヂグラッセは、鋭い刃先を向けられても怯むことなく、妖しい笑みを浮かべている。


業物わざものだねえ。誰が打った?」

「宝石泥棒に教えるものか」

「ふん、小癪な剣使いめ!」


 ここにキャロリーヌが割り込んでくる。


「生きておられましたのね」

「見れば分かることだ」

「お怪我なぞも、ございませんかしら」

「わたしの身体なら、どうということはない。それよか、どうして死鏡デスミラを投げ捨てたりした?」

「あなたを死なせないためですわ」

「その甘っちょろさが、いつか命取りになる」

「ええ、仰る通りと思います」


 キャロリーヌは、指摘されたことを素直に受け入れた。


「それはそうと、キャビヂグラッセ女史、先ほど仰った《無駄なこと》とは、どういう意味ですの?」

「治癒魔法など効くはずがないということだ。お前の鳥は、少なくとも十日間、そうして眠り続ける」

「シルキーさんは、確かに生きておられますのね?」

「腕に温もりを感じるだろ」

「はい」


 先ほどのキャロリーヌは、気の動転するあまり、つい取り乱してしまった。でも今はもう、シルキーが昏睡しているだけだと気づいている。


「十日が過ぎれば、きっと、息を吹き返しになりますのね?」

「ああ。お前を気絶させるための魔法が、その鳥に効いたのだ」

「安心しましたわ」

「ふん。正直な話、お前が死鏡を持っているのには、心底驚かされた。気づいて咄嗟に雷金光ライトニングを曲げたが、少しでも遅いと、わたしは命を落としていた」


 キャビヂグラッセは、身震いしながら話した。

 そんな魔女族に向かって、マトンが問い掛けてくる。


「シルキーを、すぐに目醒めさせられないかな。僕たちには都合があって、十日も眠らせておく訳にいかなくてね」

「小癪な剣使いに教えるものか」

「そこをなんとか」

「嫌なこった」


 外方そっぽを向くキャビヂグラッセに、キャロリーヌが深々と頭を下げる。


「どうか、お教え下さいまし」

「お前は、キャロルというのだったな」

「その愛称ニクネイムで呼ばれることも、少なからずありますけれど、正しい名は、キャロリーヌ‐メルフィルですのよ」

「覚えておくとしよう。わたしは、ちょいとだけお前を好きになった」

「まあ本当に!?」

「うん、だから教えてやる。覇王樹キャクタスの果汁を飲み込ませることだ。そうすれば、雷金光の昏睡呪縛がすぐに解ける」

「どこで手に入りますの?」

「地下迷宮へ行ってみるがよい。商売を営む小妖魔の中に、それを売る者がいるはずだからねえ」

「お教え下さいまして、どうもありがとうございます!」


 キャロリーヌは大喜びして、再び頭を下げる。

 その一方で、マトンが暗い表情を変えようとしない。


「キャロル、覇王樹は、とても高価な品目アイテムでね。たった一粒の果実に、金貨が二百枚も必要だよ」

「あらまあ、どうしましょう!!」

金剛石棒ダイアモンドを一本だけ持って行け。残りは全部、わたしのだからね」

「えっ、よろしいのでしょうか!?」

餞別ギフトだ」

「感謝致します!」


 キャロリーヌとマトンは、キャビヂグラッセに別れを告げる。

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