《★~ 過去(二) ~》
当然のこと、立食会は即刻中止となった。
パンゲア帝国の要人たちには、安全のため迎賓の間に移って貰う。主賓だった皇太子の遺骸も、同じ場所へと丁重に運ばれた。
立食会に出す料理を準備し給仕の一切を担当した、グリルおよび彼の指揮下にあった三十人の調理官は、別の場所、第三玉の間に集合させられることになった。
中央の奥に設えてある玉の座に、皇帝陛下が優雅に腰掛けておられる。そのすぐ横、険しい表情で立っているのは一等護衛官だ。
少し離れて、一等の政策官、管理官、医療官が神妙な態度で、直列して並んでいる。
集まっている調理官の一人一人に対し、順に、一等政策官からの尋問が行われた。
しかしながら、なんらかの悪事を自白する者など、誰もいなかった。パンゲア帝国の皇太子に毒を盛った犯人は見つからなかったということ。
調理官たちに向けて、皇帝陛下がお言葉を発せられる。
「うぬら全員の官職を剥ぐ。異論あるまいな」
この勅令に対し、異議を申し立てる者など一人もいなかった。
連帯責任なのである。立食会の料理を担当した調理官たち三十一名は、今後、一切の例外を認めることなく、宮廷への出入りを禁じられることに決定した。
グリルの指揮下にいた三十人の調理官は、速やかに、宮廷外へと追いやられてしまう。
このような重い処分を受けることになっても、まだ彼らの胸の内には、「職を失いはしたけれど、命と家と財産が奪われないでよかった」という安堵がある。
とても厳しく冷酷な統治をすることでおそれられていた、先代の皇帝陛下の世であったなら、今回のような不祥事に対し、間違いなくあらゆる資産を残らず取り上げられ、そればかりか翌日までには、全員が処刑されていたことだろう。そうならずに済んだという、大きな安堵なのだった。
その一方で、最高責任者の立場にあった一等調理官のグリルに対しては、よりいっそう重い処分が下されることになった。
私領、邸宅、所有金貨のすべてが没収され、ありとあらゆる勲章まで剥奪される。その上でさらに、辺境の地へと追放されることに決まった。
ここから、メルフィル公爵家の没落が始まるのである。