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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》アラビアーナの地下迷宮
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《☆~ 雷光の槍 ~》

 聡明な使い鷲のシルキーも、自らの判断で宙を舞い、宝石ヂューエル泥棒(‐スィーフ)を追跡するために飛び立った。

 辺り一帯は静かな夕暮れ。少なからず心細くなるけれど、キャロリーヌは、この場で忍耐して、自身に与えられた役目を果たさなければならない。

 一分刻(ミニト)ばかりが過ぎ、突如、空から降りてくる者があった。他の誰でもなく、逃げたキャビヂグラッセである。

 驚きを隠すように、落ち着いた声で呼び掛ける。


「お帰りなさいまし」

「ああ、ただ今」

「どうして、お逃げになりましたの?」

「決まっているだろ。賢者の石を独り占めしたいからだ」

「それは、ヴィニガ子爵さんのものですわよ?」

「今はもう、こっちの手中にある。だからわたしのだよ」


 キャビヂグラッセは、得意気な顔で手前セルフ勝手センタドな理屈を話しながら、持ち逃げした魔石を、高く掲げてみせるのだった。


《手の中にあるから、自分のものですって??》


 このように理不尽でしかない言い分など、とうてい認める訳にいかないと思うキャロリーヌだけれど、それを逆手に取る策を思いつく。


引き寄せ(アトラクション)!」

「はっ!?」


 キャビヂグラッセは、驚愕の気色を隠せなかった。しっかりと握り締めていたはずの魔石が、音もなくすり抜けてしまい、空中を一直線に飛んでキャロリーヌの手へ渡ったものだから、これは無理もないこと。

 しかしながら、雷金光系統の老獪な魔女族が、このまま口を閉じて見過ごしはしない。


「てっきり人族の小娘と思っていたが、まさか魔女族だったとは。あっははは、面白い!」

「そうですか」

「うん、お前ほど魔女の存在を感じさせない者も、なかなかに珍しいのだよ。わたしの不意を突いて、見事に宝物アイテムを奪い取るという、その俊敏さ(クウィクネス)も、ちょいとだけは称賛してやるとしよう」

「お褒め下さり、光栄ですわ。うふふ」

「笑えるのもここまで。小癪な態度をやめぬなら、容赦はしない。しかし同じ魔女族、ただ一度の機会チャンスを与えてもよいぞ。さあ、わたしの魔石を今すぐ返せ」

「なにを仰いますか。これは、あたくしのですわよ?」

「なんだと!」

「だって今はもう、こちらの手中にありますもの」

「黙らっしゃい!!」


 怒り心頭に発するキャビヂグラッセである。彼女の瞳が妖しい明るさで輝きを増し、歪められた口唇は、微かな震えを伴って開かれる。相手が魔法スペルを唱えようとしていることが、キャロリーヌには、よく分かった。


「いけません!」


 咄嗟に叫んで、魔石を放り出す。自由になった両手を使い、首に掛けてある紐を掴み取り、胴着内の死鏡デスミラを身体から引き離して、勢いよく空へ投げる。

 その一方で、キャビヂグラッセが、後方へ距離を隔てながら詠唱する。


貫け、(ピアス・)雷金光ライトニング!」


 宙に光の筋が生じ、真っすぐに飛んでくる。それは「雷光の槍(ライトニングスピア)」と呼ぶに値する攻撃魔法だった。あまりにも速く、逃れる術がない。

 でもキャロリーヌの額を貫く寸前、どういう訳か、槍は大きく折れ曲がって、クルクルと回転しながら空をゆく。


「ああっ!!」


 全身が凍りつくように感じた。なぜなら、雷金光の走った先に、こちらへ向かって飛ぶ鳥の姿があるのだから。

 上空が眩く輝き、一瞬、なにも見えなくなった。

 けれども視界はすぐ戻り、キャロリーヌは、あわてて両腕を広げ、落ちてくる白頭鷲を受け止めた。


「シルキーさん!」


 呼び掛けても、目を閉じたまま動かない。

 ここにマトンが戻ってきた。彼の手には死鏡がある。


「キャロル、無事かい?」

「あたくしが、それを投げたばかりに……」


 身体の力が抜けてしまい、キャロリーヌは崩れるように座り込む。

 マトンは周囲を見渡す。少し離れた場所で、キャビヂグラッセが、うつ伏せになって倒れており、その近いところに、パースリの背袋が、金剛石棒の詰まったまま置かれている。

 傍に転がっている賢者の石に気づき、取りあえず拾って、再び問い掛ける。


「キャロル、一体なにがあったの?」

「シルキーさんが、ううぅ」


 大粒の涙をいくつも落とし、啜り泣くばかりのキャロリーヌ。

 ほんの数分刻で色々なことが起こり、胸中の衝撃は大きく、なにから伝えればよいのか、まったく分からないのだった。

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