表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART5 過酷な地下迷宮探索》アラビアーナの地下迷宮
195/438

《★~ 大賢者の最上級宝石(六) ~》

 冷たい古古椰子(コウコナト‐)果汁ヂュースを飲み終え、各自は急ぎ、出立の仕度を始めた。パースリも重そうな荷物を担いで、一等官馬車に乗り込む。

 この先、まずローラシア東部国境門へ向かい、メン自治区に入って、さらに東へ進めば海域に出る。そこから貸し船で北上して、ゴンドワナと呼ばれる地方の極東に古くからある、アラビアーナの街に辿り着く。この経路は、少しばかり遠回りになるけれど、用心のため、パンゲア帝国の領土を一切通らない方針だから。

 馬車が走り出してすぐ、ショコラビスケがパースリに話し掛ける。


「ヴィニガ子爵さんの趣味はなんですかい。俺は魚釣りが好きですぜ」

「ボクの好きなことは、探索と全世界ユーニヴァースの研究です。それは趣味というより、このボクに与えて貰った、使命ミションのような仕事ものです」

「魚釣りは、やらないのですかい?」

「必要があったら、することもあります」

「そりゃあ一体、どういう意味でさあ?」

「探索のために辺境の地で過ごす際、川や湖があれば、そこで魚を獲って食糧にするのです」

「この俺も、釣った魚は、一匹残らず食べますぜ」


 突如、馭者ドライヴァの席から、マトンが口を挟んでくる。


「ショコラは釣りを楽しみ、得られた魚を食べることも楽しいだろう?」

「そりゃあ、そうですぜ」

「ヴィニガ子爵の魚釣りは、楽しみが目的なのとは違って、その日を生き抜くためになさるのだよ」

「けれども、砂利なんかを滋養がある食品に変えることのできるとかってえ、便利な宝石をお持ちでさあ」


 ショコラビスケは、今朝オイルレーズンから聞いた、「賢者の石」があれば、魚を釣らなくとも、食材を簡単に得られるはずだということを、得意気な顔になって言う。

 しかしながら、パースリは頭を大きく横に振った。


「ボクが持っているものは、今のところ、その効力を失っています」

「がっほ! そりゃあまた、どうした訳でさあ!?」

「賢者の石が持つ効力というのは、徐々に減ってゆき、一年も経てば、まったく使えなくなってしまう特性があるのです」

「すると、ただの()()()()って、ことなのですかい?」

「まさしく、その通りです」

「なんてえこったあ……」


 肩を落とすショコラビスケである。不思議な力のある宝石を頼りに、パースリを仲間として加えたはずなのに、その石が使えない代物だと知らされたのだから、これも無理はない。

 今まで黙っていたキャロリーヌが、静かにつぶやく。


「一等栄養官さまは、そのようなお話を、なっていませんでしたわ」

「おや、そうなのですか?」

「はい」

「効力を失ってしまった五系統の石を、六系統(フル‐シェイド)にして、再び使えるようにするのです。オイル伯母さんは、そのように話しませんでしたか?」

「えっ、どういうことですの??」


 これも聞いておらず、キャロリーヌは驚いた。

 それでパースリは、詳しい説明の必要があることを知る。


「アラビアーナの街に、雷金光ライトニング系統の名高い魔女族がおられます。そのお方に、対価として五万枚の金貨を支払い、六系統の魔石に作り変えて頂くのです」

「まあ、そうですのね!」

「がっほほ。そんなこと言ってなかったぜ、まったくよお!」


 ここにまた、マトンが割り込んでくる。


「ショコラ、なにもオイル婆さんが悪い訳ではないよ。今朝は、なかなかに慌ただしくしていたからね。洗いざらい話すには、こくが足りなかったのさ」

「マトンさんの仰る通りですわ」


 素直に得心するキャロリーヌである。


「大賢者の石ってえことについては、お話しになりましたぜ。さぞかし美しい宝石に違いねえでさあ。がほほ!」

「いいえ。見た目は黒いだけの石に過ぎません」

「がっほ! そいつは一体、どうしてでさあ??」


 ショコラビスケに限らず、魔女族を除く亜人類や、たいていの人族は、宝石という品目アイテムを美しい装飾品として扱うことでしか、その価値を見出せていない。高価な宝石に手が届かない者にしてみれば、高く夜空に輝く、一つ刻の業火フレイムの星(‐スター)、あるいは二つ刻の純水ウォータの星(‐スター)のように、鮮やかな色彩を放つ様子を思い描くのが、いわゆる「関の山」であろう。

 しかしながら、「大賢者の最上級宝石」と呼ぶに値する六系統の魔石は、美しい輝きを放つどころか、漆黒の塊である。見つめる者は、周囲に溢れた光もろとも、まるで魂を吸い取られるように感じるという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ