《★~ 大賢者の最上級宝石(四) ~》
オイルレーズンは、竜族兵を救う作戦を説明することで、シラタマジルコに理解して貰い、賛同を得るという、今日の目的を果たした。それで気分よく、竜族兵舎を後にするのだった。
作戦は、遅くとも八日後、第七月の二十四日目までの間に決行。パンゲア王室の地下宝物庫にあるという魔石を破壊してから、その旨を知らせるための伝書をシルキーが届ける。シラタマジルコは、伝書を受け取り次第、急ぎ竜族兵たちに伝え、一緒にパンゲア帝国の領土から逃れる。
この「脱パンゲア」の計画を円滑に進めるために、シラタマジルコが、あらかじめ信頼のできる仲間に作戦を伝えておく。また、脱出する際の経路も慎重に選ぶ必要がある。
ベイクドアラスカ、および側近の女官たちに知られてしまうと、なにもかも水泡に帰す結果を招くので、くれぐれも細心の警戒を怠ってはならず、秘密裏に行動することが最も重要だと言えよう。
伝書を運ぶ役を担うシルキーの飛行速度を考慮すると、早朝に出立して、遅くとも夕刻には、シラタマジルコのところに魔石粉砕の知らせが届くはず。もしも当日の夜になってもシルキーが到着しないなら、今回の作戦は失敗に終わったことを意味する。この場合は、誠に残念だけれど、次の機会を待たなければならない。
キャロリーヌたち一行は、政策官のピチャが馭者を務める御用達馬車に乗り、六つ刻を少し過ぎた頃、パンゲア帝国王室に帰り着く。
昼餉の仕度が整っているということで、直ちに、昨日と同じ上級要人部屋へ通された。
主料理として出されたのは、ベイクドアラスカが一推しする、金鶏の炙り脚肉である。魔女族のキャロリーヌとオイルレーズンは、当然のこと、大喜びで食し、また肉料理を好む点で、彼女たちに引けを取らないマトンとショコラビスケも、いわゆる「舌鼓」を打ち、その格別の逸品を味わうのだった。
なかなかに贅沢な食事を終えた後、キャロリーヌ、マトン、ショコラビスケは先に、帝国王室から立ち去ることが決まっている。
サトニラ氏に見送られ、三人は、オイルレーズンの一等官馬車に乗り、アタゴー山麓西門に向けて出立する。パースリと合流した上で、アラビアーナの地下迷宮へ行って、探索を始める。なにしろ、数日のうちにパンゲア地下牢獄へ通じる道を発見しなければならず、彼らの刻限は決して多くない。
一方、王室に残ったオイルレーズンは、ベイクドアラスカに招かれ、後宮内で最も絢爛豪華な王妃居室、第一王妃の間にきている。
今や帝国女王の母の立場にあるのだから、しきたりに従うなら、ここではなく、王の居室である「帝国王の間」に隣接する「帝国王の母君の間」を居室にするのが正しいはず。しかしながら、ベイクドアラスカは、ここを気に入っており、立ち退こうとしない。
「あの三方、そんなに退屈でしたか?」
「いいや違う」
「先ほど早々に、引き上げてゆかれたというではありませんか?」
「キャロルたちは、もう少しばかりの間、のんびり楽しく過ごしたいと感じておったのじゃよ。特にショコラビスケなぞは、《サトニラさんと、心ゆくまで魚釣りで競い合い、腕前の白黒をハッキリさせたい》と本心で話しておった」
「そうでしたか」
「あの者らには、やるべき仕事がとても多くあってな、あんまり悠長に遊んでもおられぬ。ローラシア皇国にしても、このパンゲア帝国にしても、若い者たちの働きがあってこそ、うまく立ちゆくものじゃよ」
「……」
ベイクドアラスカには、返す言葉が一つすら見つからなかった。
しばらく黙り、話題を変える。
「ところで、魔石を粉砕する決意は、もう整いましたか?」
「いいや、今も色々と考えておる。若い者たちには明日があるのじゃし、やるとするなら、この死に損ない魔女のババアの他、誰もおらぬわい」
「そうですか」
「じゃけれど、あたしにもまだ少なからず、この地上に未練があってのう」
「例えば、どのような?」
「孫娘のことじゃよ。生まれて間もなく馬の姿にされてしまい、そのまま十七年になる。あたしが、成長抑制を施して、馬年齢の進みを遅らせておる」
「それは誠にお気の毒なことで」
「まだ若いうちに、どうにかして、元の姿に戻してやりたいものじゃ」
「……」
涙を流すオイルレーズンを見て、再び沈黙せざるを得ないベイクドアラスカなのだった。




