《★~ 大賢者の最上級宝石(二) ~》
オイルレーズンが先ほどから、賢者の石や、ディグという高名な全世界学者の話を長々と続けているけれど、それらが竜族兵を救うための作戦と、どのように関係しているのか、シラタマジルコには、さっぱり分からない。
それでも、余計な口を砂粒の大きさすら挟んだりはせず、黙黙と聞いていたところ、彼女の透き通る蒼い瞳に、オイルレーズンが鋭い視線を向ける。
「シラタマジルコさんや」
「はい、なんでございましょう」
「あたしが、どうして賢者の石や、叔父の昔話をしておるのか、少なからず疑問を感じるのでは、ないじゃろうか?」
まるで胸の内を透かして見られたかのような問い掛けだったので、シラタマジルコは思わず目を伏せ、畏まった態度で返答する。
「オイルレーズン女史は、誠に高く鋭い洞察力を、お持ちにあらせられます。あたいは、真の意味で、心より感服させて頂くことになりました」
「ふむ」
この瞬間、突如、「きゅるぅ~」という音が、部屋に響く。
「おお、つい腹の虫を鳴らしてしまったわい」
平然としているけれど、オイルレーズンは、今朝、三つ刻を過ぎた頃に、エルフルト共和国から戻り、取るものも取りあえず、こちらに向かって出立した。そのため昨日の夕刻から、なにも口にしていないのだった。
「そのように空腹のご様子にあらせられますのに、なんの配慮を致すこともなく、呑気に構えておりまして、大変申し訳がないと存じます」
「なんのなんの、気にせずともよい」
「思いやりの深いお言葉、ありがたく感じ入りますが、せめて今からでも、お菓子の仕度を整えさせて下さいな」
「そうか。せっかくの好意じゃし、頼むとするかのう」
「畏まりまして存じます」
部屋を出て、急ぎ調理場へ向かうシラタマジルコである。
ショコラビスケが、嬉しそうに問い掛ける。
「どんなお菓子を、用意してくれるんですかねえ?」
「あたしが知るものか」
「へいへい、そりゃあご尤もでさあ。がほほ!」
たとい高く鋭い洞察力を持っていても、これから出される菓子を言い当てるのは難しいので、答えられないのは無理もないこと。
少しして、シラタマジルコが仲間の竜族兵に手伝って貰い、人数分の小鉢、茶碗など、そして大きな丸壺を運んできた。
「黒竜蜂の佃煮でございます」
「あら、蜂ですの!?」
小鉢と匙を手渡されたキャロリーヌが、驚きの声を発するのだった。
「お嫌いでしたか」
「あたくし、蜂なぞ、食したことがありませんもので……」
「たいそう美味にございますよ」
「針や毒は、ありませんの?」
「黒竜蜂は強力な顎を持っておりますが、針も毒もございません」
「顎まで食しますの?」
「はい。しっかり煮込んでありますから、とても軟らかくなっております」
続いて、丸壺から茶碗に注がれたのは、澄んだ赤紫の輝きを放っている。
「こちらは白松露のお茶にございます」
「白松露といいますと、マシュルームの一種ですわね?」
「その通りです」
ここにオイルレーズンが口を挟む。
「キャロルや、せっかくの茶と菓子じゃから、ありがたく食すとしよう」
「はい、頂きますわ」
「この俺も、ありがたく食しますぜ。がっほほ!」
「マトンさんも、ご遠慮なく、どうぞお召し上がり下さいな」
「うん、ありがとう」
蜂は、竜族なら好んで食するし、魔女族も、肉の代用にすることがある。
しかしながら、人族のマトンと、人族の娘として育てられたキャロリーヌにとっては、初めて味わう料理である。
「とても上品な甘辛さで、本当に美味ですこと!」
「うん、最初はどうかと思ったけれど、丁度よい味だね」
「がほほ! さすがは姐さんの作ってくれたお菓子、大陸一に美味いですぜ!」
「それはパンゲア軍から支給されている保存食の一つで、あたいが作ったのではないぞ」
「がほっ、そうでしたか……」
この後、一番に食べ終えたオイルレーズンが、三杯目の白松露茶を飲みながら、先ほどからの話を続ける。
「魔石粉砕の作戦を成し遂げ、無事にまた地上へと戻ってくるには、賢者の石と、全世界学者の知恵が必要になる」
「得心しました。だからオイルレーズン女史は、それに関係するお話をなさっておいでなのですね?」
「そうじゃとも」
オイルレーズンは、昨晩、パースリという全世界学者と会い、相談して決めたことについて、話し始める。