《☆~ キャロリーヌの決意(七) ~》
竜族兵たちを救うための計画が、望ましくない事態に陥っている。
そんな今の状況を理解したキャロリーヌは、少しばかり肩を落としながら、単純に考えてみたことを、オイルレーズンに話す。
「宝物庫までに通る道を引き返せば、地上へ帰ることができますのでは?」
「逆には戻れぬのじゃよ」
「あらまあ、どうしてかしら!?」
「途中にある扉のすべてに、一方通行が施されておるからのう」
その魔法が掛けられた扉は、片方からしか、開けることができない。
「そうですのね。でも一体なんのために、そのようなことを??」
「昔、鉱石を採るための採掘師が大勢、地下へ送り込まれた。中には仕事を放り出して逃げる者もおってのう、それで当時のパンゲア帝国王が魔女族に頼み、入ってしまうと二度と出られぬ仕掛けを、作らせおったのじゃよ」
「では、帰れなくなってしまった方々は、どうなさいましたの?」
「日の光の届かぬ地下深くで、ずっと生活せざるを得なくなってしもうた」
まるで獄中にいるような日々なので、そこに住む者たちが「パンゲア牢獄街」と呼ぶようになったという。
「今もまだ、そのような場所に、採掘師のお方たちが暮らしておられるのかしら」
「鉱石が採れぬようになったのでな、それを生業にする者らはおらぬじゃろうけれど、彼らの子孫や、新たに地下へ送られた者たちが、多くおるはず」
「きっと、日の光を浴びることのできる、この地上へ帰りたいと、お思いになっておられるでしょうに……」
「ふむ。その通りじゃわい」
「誰一人として帰ってこられないなんて、酷いことですわ」
「いいや違う」
「えっ、違いますの!?」
「たった一人だけ、帰ってきた者がおるのじゃよ」
「あら、それは本当かしら!」
キャロリーヌは疑問に思うのだった。入ってしまうと抜け出すことのできない牢獄と呼ばれる地下の空間から、どのようにして戻ってこられたのだろうか。
「本当じゃとも。あたしの叔父で全世界学者の人族、ディグ‐ハタケーツが唯一、地上へ帰ることができた者じゃよ」
オイルレーズンがパンゲア牢獄街を知っているのは、ディグから聞いたからだということ。
「そうしますときっと、その叔父さまは、一方通行の魔法を無効化する方法を、ご存知でしたのね」
「いいや違う」
「えっ、違いますの?」
「叔父は、パンゲア牢獄街をずっと東に進み、深く穴を掘って、アラビアーナの地下迷宮へ辿り着いた。そこを抜け出すことも極めて困難じゃったが、不屈の精神で探索を続け、半年後、ついに日の光を見たのじゃ」
「まあ、勇ましいお方ですわね!」
全世界学者であると同時に、上級と呼べるほどの探索者でもあったディグだから、それを成し遂げることができた。
ここにショコラビスケが口を挟んでくる。
「そのディグさんってえ人族が、無事に地上まで帰ってこられたのなら、俺たちにだって、同じことができるはずでさあ?」
「地下迷宮への通路がどこにあるのか、今となっては、分からぬようになっておるじゃろう」
「そりゃあまた、どういうことですかい」
「穴が塞がっておるからのう」
「がほっ、どうして塞がるのですかい!?」
この疑問には、オイルレーズンに代わって、マトンが応じる。
「ショコラは、穴掘りをしたことがないの?」
「いくら俺でも、それくらいの経験、少なからずありますぜ!」
「だったら、地面を掘ると土や砂利が沢山できることは分かるだろう? それをどこかへ移さないといけないことも。最初のうちは、地上に盛り上げておけばよいけれど、深くまで行くと、そうもしていられない。どうしても自分の後ろに、土砂を残しながら掘ることになる。そうでもしないと、いつまで経っても前へは進めないからねえ」
「言われてみると、確かにその通りですぜ。がほほ!」
ようやく納得できて、愉快そうに笑うショコラビスケである。




