《☆~ キャロリーヌの決意(五) ~》
サトニラ氏の部下が投げ釣りをする準備を整えてくれている。その道具は、糸を長く伸ばして、餌をつけた釣り針を遠くの深い地点まで飛ばすことができるものであり、巻車と呼ばれる機械が備わっている。
「皆さまの分も、ご用意させております。ご一緒に楽しみましょう。一番に多くをお釣りになったお方には、私の所有しております、最上級の竿を一本、ご進呈させて頂こうと思いますから」
「それなら、この死に損ない魔女のババアが、鯰釣りの腕前、篤と見せることにしようかのう。ふぁっはは」
「がほほ! この俺さまこそ、一番多くを釣ってみせるぜ!」
オイルレーズンとショコラビスケが、サトニラ氏からの挑戦を受け、極めて強い意欲を示すのだった。
その一方で、キャロリーヌは、少なからず不安な気色を見せている。
「あたくし、お魚釣りなんて、一度だってしたことありませんの。うまくできますかしら……」
「気が進まないようなら、なにも無理には、つき合わなくていいと思うよ」
マトンは、餌を使って獲物を誘き寄せるような行為を嫌っており、それだけに、魚釣りにしても、あまり好まないでいるのだった。
「キャロルや、見真似してやってみるとよかろう。たとい一匹も釣れずに終わったとしても、どうということはないのじゃからのう」
「はい、分かりました」
「そうか、キャロルがするというのなら、この僕も、参加しない訳にいかないね」
キャロリーヌとマトンも加わって、一つ刻ばかりの間、サトニラ氏を含む五人が魚釣りに勤しんだ。
この結果、初めてだったキャロリーヌが、銀竜鯰を四匹、沼海老を二匹、諸子を一匹ということで、合わせて七匹を釣り、オイルレーズンが銀竜鯰を三匹、マトンが二匹の諸子だった。
釣りの経験が長いサトニラ氏とショコラビスケは、水草を三度ばかり釣り上げただけに終わり、二人は「こういう日もある」という言い訳をすることになった。
一行は、日の光のあるうちに帝国王室へ帰り着いた。釣った魚類は、夕餉の食材として調理官に託される。
宿所の準備が整っており、女性二人と男性二人に分かれて、そこへ入る。
キャロリーヌとオイルレーズンの部屋に、早速、サトニラ氏から最上級の竿が届けられた。
「このような逸品を頂いて、本当によろしいのでしょうか?」
「構わぬよ。今日、キャロルが一番多くを釣ったのじゃからな。ふぁっははは!」
「でも、お魚釣りなんて、そうそうしませんのに」
「この竿は、箒柄と同じように、飛行に使えるのじゃよ」
「えっ、そうなのですか?」
「そうじゃとも」
「まあ、役に立ちますのね!」
ここに突如、第一女官のミルクド‐カプチーノがやってきた。
「お邪魔をして申し訳のない限りに存じます。けれども、少しばかり話しておかなければならないと思い、このように参上させて頂いた次第であります」
「堅苦しい前置きは無用じゃ。単刀直入に、どういう用件かのう?」
「はい。魔石がある地下の宝物庫のことにございます」
「ほほう。地下が一体、どうしたというのじゃ?」
「実は、一度入ると決して地上へ戻ってくることのできないのです」
これを聞いて、オイルレーズンが目を光らせた。
「つまり、パンゲア牢獄街のことじゃな?」
「えっ、知っておられましたか!?」
「もちろんじゃとも」
「そうでしたか……」
「ふむ。じゃがよく教えてくれたのう。このことがベイクドアラスカに知られでもすれば、一つの刻として、その命はないじゃろう」
「はい、仰せの通りにございます。しかし私は、自身の犯した罪を滅ぼしたいがために、お伝えしました次第です。それでキャロリーヌさんに、お許し頂こうとは、夢の中ですら思うことはありません。けれども、たとい焼け石に水になったとしても、こうして、お話しさせて頂かない訳には参りませんでした」
ミルクドは涙を流しながら、このように話し、キャロリーヌに向かって深く頭を下げるのだった。