《☆~ キャロリーヌの決意(四) ~》
一行は、王室の御用達馬車に乗り、しばらく静かに揺られる。
その道中も、ショコラビスケとサトニラ氏が楽しげに会話を続けている。
「ところで、今回どうして訪問団に、ご参加なさったのでしょうか」
「おうサトニラさん、よくぞ聞いてくれましたぜ! 実はなあ、知り合いで少なからず気にしている女が、パンゲア帝国衛兵の小隊長をしているのですがね、その奴に会いたい一心で、はるばるやってきたってえ訳ですぜ。がっほほ!」
「その小隊長とは、どなたのことでしょうか」
「名はシラタマジルコですぜ」
「ああ、彼女のことでしたか」
「がほっ、知っておいでなのですかい?」
「はい。先日のこと、女王陛下の白馬譲り受け団の一人であったシラタマジルコさんは、先遣部隊の長としての務めを立派に果たした功績が認められ、今では等級昇格して、中隊長になっていますよ」
「おうおう、そりゃあ、この俺も鼻が高いぜ!」
大喜びするショコラビスケである。
その一方で、馭者が目的の地に到着したことを伝えてきた。この先、湖まで少しばかり歩く必要があるという。
馬車を降りると、一帯を占める色鮮やかな草花に迎えられた。黄林檎の樹林があり、甘そうな香りを漂わせている。
緑色の果実を見つめ、キャロリーヌが目を輝かせざるを得ない。
「まあ、美味しそうですこと!」
「いいや違う」
「えっ、違いますの!?」
「まだ黄色く熟す前じゃから、美味ではないよ」
「そうなのですか?」
「キャロルは黄林檎を知らぬか」
「はい。あたくし、林檎は緑色のしか、見たことありませんもの」
「皮の色が違うだけで中身は同じようなものじゃよ。ただ、どのような料理に使うのが適しておるか、種類によって少なからず差があるがのう。ふぁっはは」
「まあ、林檎も、お料理によって、種類を使い分けますのね!」
感心するキャロリーヌに、サトニラ氏が話し掛けてくる。
「この黄林檎を使って、林檎麺麭というお菓子を調理しますと、たいそう美味しゅうございますよ」
「あら、食べてみたいものですわ」
「奇遇ですねえ。なにしろ本日の夕餉後に、それを甘味としてお出しすることになっております。是非、お楽しみになさっていて下さいませ」
「まあ、本当に奇遇ですわ!」
このように林檎の話をしながら進み、湖に到着した。
目の前は浅くて水が透き通っているので、底の黄土が見えている。その先は深くなっているのか、近いところは淡い水色をしていて、遠くへ向かうにつれて、徐々に濃く輝く妖魔群青の湖面が広がっている。
キャロリーヌたち訪問客の四人は、「まさしくサトニラさんが一推しするだけの見事な絶景」と、この眺めが秀逸であることを認めた。
一方、湖底の泥は極めて不浄で、毒を多く含んでいるため、落ちないように気をつけなければならない。サトニラ氏が念のために、もう一度、その点を話しておく必要を感じる。
「湖の美しさに心が魅かれ、つい水の中に入りたいという衝動に駆られます。しかしながら、それは避けなければなりません。あの黄土色の泥に足を一歩でも踏み入れますと、のめり込んでしまいます。そうなりますと泥沼ですから、たちまちにして体勢を崩し、身体が沼底へと沈むのです」
「まあ、おそろしいこと!!」
「仰る通りです。昔から妖魔に引き込まれるという言い伝えもあります。どうか皆さま、くどく繰り返し申しますが、くれぐれも、ご警戒になって下さいませ」
「ふむ。用心するに越したことはないのう」
代表で返答するオイルレーズンの顔を見て、マトンとショコラビスケは、無言で頭を一つ縦に振ることで同意を示す。
キャロリーヌも、「あまり水辺に近づき過ぎないようにしましょう」と気を引き締めるのだった。




