《★~ メルフィル家に届く凶報 ~》
一昨日は、辺り一面を銀世界に変える豪雪、極寒の天候だった。
それとは真逆なことに、昨日の日中はとても冬と思えない陽気を迎えたため、平原を覆っていた雪のほとんどが、昨夜のうちに溶けてしまい、消え果てている。
一日の遅れとなったけれど、宮廷から定期訪問の任務を担った二人が、この辺境の地、メルフィル家にやってきた。
そのうちの一方は、いつもくる四等政策官の一人である。
もう一人は、以前ここへ一度だけ訪れたことのある、オートミール‐フォークソンという名の二等管理官だった。
今回もまた、なにか特別な話でもあるのだろうかと思いながら、キャロリーヌは冷静な態度を装い、普段と同じように二人の宮廷官を談話室へと迎え入れた。
オートミールは開口一番、丁重な申し開きの文言を繰り出す。
「昨日は、定例となっています物資運搬と、近況確認の任を果たすことができず、誠に申し訳ないことでありました」
「いいえ。あのように大雪ともなれば、荷馬車で長い道のりを移動してくることなぞ、とても難儀でありましたでしょうから」
「はい、それもそうですけれど、その他に昨日は未明より丸一日、たいそう込み入った事態がありましたもので……」
「え?」
「その仔細につきましては詳しくお伝えできませんけれども、実は本日、なかなかに申し上げにくいご報告を預かり持ち、こちらへお伺いしました次第です」
二等管理官は、皇帝陛下崩御の一件を伏せている。古今東西において、君主の死をしばらく内密にする方策は、よく用いられることである。
キャロリーヌは、オートミールの表情から察して、よくない知らせがあるのだと悟った。
それで腹を据えて聞こうと決意する。今さら少々のことでは驚かないつもりである。
「どのようなことでしょうか」
「先般、私が持って参りました縁談の件にてございます。大変言い辛いのでありますが、スプーンフィード伯爵家のご子息、ジェラートさまとのご婚約は、なかったことと相成りました」
「えっ……」
「誠に心苦しいばかりでございますが、実は昨日ジェラートさまには、スプーンフィード家をお継ぎなさらねばならない事情が起こりまして、かの一等管理官殿は、そのように果断されるに至りました」
「そ、そうですか。どのようなご事情が?」
「ええ、その件にございますが、いずれお知らせもあることでしょうし、お伝えさせて頂きます。ジェラートさまのお兄上、フローズンさまが急死なされたのでございます」
「まあ!?」
宮廷で月に一度の定例としている「皇族懇親朝食会」という行事があり、振る舞う料理の準備が、一昨日の夜半から行われていた。一等調理官であるフローズンも、指揮をするために夜通しで働いていた。
そして未明、スープの仕上げを確認する際、それを口に含んだフローズンは、すぐその場で倒れ、還らぬ人になってしまったという。
「そういうご事情ならば、致し方もございませんわ。あたくしのことは、どうかお気になさらないよう、ジェラートさまにはお伝え下さいませ」
「は、はい。もちろんですとも。さすがはメルフィル公爵家のご令嬢、実に人情の厚いお言葉にてございます。快くご承諾頂けること、とても助かります」
キャロリーヌにしてみれば、心からの承諾はできないけれど、不幸に見舞われたジェラートの心境を思えば、その言葉しか返せなかったのである。