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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART4 パンゲア帝国の脅威》竜族を救い出す新しい任務
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《★~ 魔石粉砕の作戦(七) ~》

 ミルクドが口を開こうとした時、オイルレーズンが先を越して話す。


「立ったままじゃと疲れるであろうし、腰掛けてはどうかのう?」

「いえ、このままで構いません」


 壁に沿って、椅子がいくつか置かれているけれど、ミルクドは、そちらには一瞬すら見向きもしない。


「そうか」


 オイルレーズンは、説得の余地がないと知り、黙ることにした。

 老魔女に代わって、ベイクドアラスカが口を挟む。


「ミルクド、年寄りの好意は、素直に受けるものでないか?」

「はっ、仰せの通りにございます。考え違いをしておりました」

「間違いと気づいたのなら、直ちに改めよ!」

「承知致しました。オイルレーズン女史のお言葉に、甘えさせて頂きます」


 そう返答したミルクドは、俊敏に動いて、椅子を一つ運んで戻る。

 まずはオイルレーズンに向かって頭を下げ、それからベイクドアラスカにも、深くお辞儀をする。

 女官がまどろこしい振る舞いをしている間、ショコラビスケは、小皿の上に残っていた蜜滴みつたらし団子だんごを食べ尽くす。胸の内では、「最初から座っていれば、早く済むことだぜ」と思っているのだった。

 ショコラビスケの茶碗が空になったので、キャロリーヌが丸壺を手に取り、小麦茶を満たす。


「おう、ありがたいことですぜ。がほほ」

「キャロルや、あたしにも頼む」

「はい」


 オイルレーズンの茶碗に、五杯目が注がれる。

 それを眺めていたベイクドアラスカが、少なからず驚いた様子で尋ねる。


「あまり沢山お飲みになると、お腹痛(スタマクエイク)を患うのでは?」

「なんのなんの、平気じゃわい。見ての通り、あたしゃもう年寄りじゃから、肌が乾燥しがちになってしまってのう。干からびてしまわぬように、毎日四十杯より多く、茶湯(ティー)果汁ヂュースを飲むようにしておる。ふぁっははは!」

「そうですか……」


 一日の茶は、たいてい二杯で済ますベイクドアラスカにとって、オイルレーズンが言った「毎日四十杯より多く」は、大袈裟な冗談のつもりなのか、それとも本当に飲んでいるのか、判断ができない。

 ここに第一女官が、遠慮がちな態度で口を挟んでくる。


「えっと、お話を始めても、よろしいでしょうか?」

「おお、そうじゃった。始めて貰おうか。ふぁっはは」

「ミルクド、存分に話すがよい」

「はい」


 ベイクドアラスカからも、いわゆる「お墨つき(アプルーヴァル)」を得ることができたのだから、胸を張って口を開くことができる。


「私がメルフィル家に非道を働いた理由は、復讐のためです」

「ええっ!!」


 思わず大きな声を発するキャロリーヌである。他の者も、少なからず驚いている様子だけれど、黙ったまま、ミルクドの言葉に耳を傾けようとしている。

 キャロリーヌは、オイルレーズンたちの冷静さを見習うことにして、開けた口を塞ぐのだった。


「グリル殿は、母を殺したのです」

「えっ、そんなぁ!!」


 落ち着きを取り戻したばかりのキャロリーヌが、また大声を出した。

 今度ばかりは、疑問の言葉を投げ掛けざるを得ない。


「なにかの間違いでは、ありませんの!」

「ええ、その通りでした」

「はっ??」

「キャロリーヌ嬢の仰るように、間違いと後で分かりました」

「へっ、ではやはり、あたくしの父が、ミルクドさんのお母さまを、その、死なせてしまったというのは、間違いだったのね?」

「いいえ、それは間違いではありませんでした」

「えっ?? 一体、どちらですの!!」


 キャロリーヌは混乱してしまい、珍しく声を荒げ、早口で話す。


「あたくしのお父さまに限って、どなたかをあやめるなぞとは、そのようなことありませんわよね?」

「いいえ。あなたの父上、グリル殿が母を弓で射って命を奪ったのは、本当にあったことです」

「まさか、そんな……」

「ただ、その時の母は、真雁まがんの姿だったようです」

「真雁??」

「はい。その真相を聞いたのは、数年が経ってからですけれど」


 ミルクドの母親、魔女族のカニードクロケットは、十七年ばかり昔、バゲット三世王の第一ファースト王妃(‐レディ)、オリーブサラッドの機嫌を損ねたせいで、真雁になる魔法が施され、アタゴーの山に追放された。その時、狩りにきていたグリルが、そうと知らずに、弓で射貫いてしまったという。


「……」


 俄かには信じ切れず、黙ったまま首を傾げざるを得ないキャロリーヌである。

 口には出さないけれど、胸の内に、「そんな作り話みたいな不幸が、まさか本当に起きたのかしら?」という、疑いの思いが押し寄せるのだから、これは無理もないこと。

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