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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART4 パンゲア帝国の脅威》竜族を救い出す新しい任務
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《★~ 魔石粉砕の作戦(四) ~》

 ローラシア皇国の停戦交渉団が、パンゲア帝国王室に到着した。

 会談は、こちらの政策官室で行うことになっていて、一等政策官のチャプスーイだけが、ここに通された。

 パンゲア帝国で政策官の長を務めるバトルド‐サトニラが、入室してきた彼に、笑顔を向けて挨拶の言葉を掛ける。二人は、ローラシア皇国がパンゲアからの訪問団を宮廷に迎え入れた際に初めて対面し、少しばかり言葉を交わしたので、お互いに顔を覚えている。


「さあ、腰を落ち着けて下さい」

「はい」


 円卓に備わっている席の一つに座るチャプスーイである。

 サトニラ氏は、卓上に置いてある丸壺ポットに手を伸ばす。


「まずは、小麦の焙煎茶など、いかがでしょう?」

「ええ、頂くことにします」


 用意されていた二客の茶碗カップに、よく冷えている小麦茶が注がれる。

 芳ばしい麦の香りが漂い、この穏やかな雰囲気に包まれた両者の間で、停戦を目的とした交渉が始められる。

 一方、キャロリーヌたちは、いわゆる「上級要人ヴィーアイピー部屋(‐ルーム)」に招かれ、客人用の高級な長椅子ソウファに、横一列になって座り、少しばかり待たされていた。

 低い平台の上に、透き通った丸壺が一つと、茶碗、お菓子を載せた小皿、木串、四人分ずつが用意されている。


「これらは、どのようなお料理かしら?」


 キャロリーヌが興味を抱き、右横のオイルレーズンに尋ねた。


「丸壺に入っておるのは、色と香りで分かるわい。煎った小麦で作る茶を冷やした飲み物(ドリンクス)じゃよ」

「まあ、小麦のお茶ですのね」

「そうじゃとも」

「このお皿に盛られた丸いものは?」

「小麦の茹で団子(ダンプリング)を焼いて、甘味の濃い糖蜜スィラプを表面に塗った菓子でな、この地に暮らす者たちは、蜜滴みつたらし団子だんごと呼ぶ。それもよく冷やされておって、今の季節には格別な逸品じゃわい。ふぁっははは!」


 ショコラビスケも話を聞きながら目を輝かせ、小麦茶と団子を眺めている。


「飲み食いしても、よろしいのですかい?」

「いいや、勝手にしてはならぬ」


 ここへ菫色の(ヴィオラシャス)婦人服(‐ロウブ)を纏った女性が、斜め後ろに女官を従え、姿を現した。後方には、パンゲア衛兵の男が四人、手にスピアを握っており、尖った切っ先が天井に向けて鈍い光を放っている。


「よくお越しになった、オイルレーズン女史」

「おおベイクドアラスカ、久しぶりじゃな。ずいぶんと立派になっておるものじゃわい。今では帝国女王の(ザ・クウィーンズ・)マザとはのう」


 オイルレーズンたちが座っている長椅子の対面にある豪華な椅子に、ベイクドアラスカが腰を下ろす。女官は、すぐ傍に畏まって立つ。

 衛兵たちが長椅子の四つの角に散らばり、座っている四人を取り囲む。


物物ものものしいのう。あたしらに害意なぞ、ないのじゃが……」

「そうですね、失礼でした。お前たちは、呼ばれるまで下がっておれ!」


 穏やかに話していたベイクドアラスカだけれど、衛兵には、叱責するような厳しい口調で命令するのだった。

 男たちは頭を深く下げてから、迅速に部屋から立ち去る。


「これで、ご安心でしょうか?」

「ふむ」


 女官が黙って動き、四人に小麦茶を注ぐ。

 ベイクドアラスカが、再び穏やかな口調で話す。


「まずは、お茶でもどうぞ」

「では、頂くとしよう」


 オイルレーズンは、茶碗を持ち上げ、香りを嗅いで一口飲む。左右にいるキャロリーヌとマトンも、その所作を真似た。

 しかしながら、ショコラビスケは、木串に団子を三つ突き刺し、纏めて口に入れて二回ばかり噛み、あっという間に飲み込む。


「がっほ、こりゃ美味うまいぜ!!」

「戯け、そんな大声を出しおって」

「おうおう、済みませんでした」


 ベイクドアラスカが口を挟んでくる。


「構いません。それより、竜族のあなた、味がお分かりなのね?」

「へいへい、この俺さま、どんな味だって分かりますぜ。がっほほほ!」


 褒められたと思って、素直に喜ぶショコラビスケである。ベイクドアラスカが胸の内で、「竜族に本当の味なぞ分かるものか」と蔑んでいることに、砂粒の大きさすらも想像が及ばないのだった。

 傍で控えている女官には、それが手に取るようにして分かるので、滑稽に感じてしまい、笑みの浮かぶ口元を、咄嗟に手で覆って隠さざるを得ない。

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