《☆~ 竜族を救い出す策(三) ~》
竜というのは、たとい一頭でも極めて強靭な動物である。それが二頭で力を合わせれば、他のどんな動物も人族も、とうてい太刀打ちできないような、ほとんど無敵の強さを誇ることができるはず。
今から二千年ばかりの昔、そのような強国であり続けたいと願って、ローラシア皇国は、建国する際に、背中合わせになった二つの竜を描く設計で紋章を作ることにした。力の強さだけでなく、竜には高潔で誇り高い精神を持っているという印象もあるので、それがそのままローラシア皇国の象徴になったという。
そういった経緯があるくらいに、この皇国を建国したローリエト民族は、長く竜と深い縁を持ち、そして亜人類の中でも特に、竜の血を引くと考えられている竜族と、よい関係を保ち続けてきた。
当代の皇帝陛下は、竜族を大切にするという思想を、代々の皇帝陛下と比べてみても、よりいっそう強くお持ちになっておられる。今年の春には、竜族の栄養を管理する新しい官職を追加することにも、快いご賛同を頂けた。
このローラシア皇国で暮らしてきた者たち、特に宮廷官としては、パンゲア帝国で多くの竜族が不当な扱いを受けているという悲惨な状況を知ってしまった今、決してそれを見過ごす訳にいかない。
皇帝陛下の御前で協議された事案「水準の一‐パンゲア帝国から竜族を救い出す策」は、当然のこと全員が賛成して採用となる。この策の内容は、立案したオイルレーズンの計画に概ね一致している。
表向きとしては、パンゲア帝国へ停戦交渉に赴く形になっているけれど、この策の目的は、帝国の王室内にあるらしい魔石を壊すこと。交渉団の要員には、一等政策官のチャプスーイ、この機に二等から昇格を果たした一等栄養官のオイルレーズン、三等栄養官のキャロリーヌ、護衛および馬車の馭者を任される人族の剣士、マトン、そして屈強な肉体を持つ竜族の探索者、ショコラビスケが選ばれた。
パンゲア帝国へは、停戦交渉を行いたいと記した親書を送ってある。それに対する返信が、つい先ほど届き、提案に応じるという内容だった。これで明日の早朝に交渉団が出立することに決する。
魔石を壊す作戦の準備として、キャロリーヌには、水鏡という魔法を施して、ショコラビスケの印象を映しておかなければならない。そのためには、ドリンク民国から呼び出されている竜族と合流する必要があるので、キャロリーヌとオイルレーズンが中央門の外へ出てきた。
ショコラビスケが、いつもマトンと泊まることにしている宿屋の前で待っていた。
「奴は、きていますぜ。ちょっと行って、呼んできましょう」
彼はそう言ってから、急ぎ駆けて宿屋の中へ入る。少しばかり経って、もう一人の竜族を連れて戻る。
「オイルレーズン女史、こいつがお話ししました、俺さまの昔馴染み、スティーマビーンズですぜ。がほほ」
「なに笑っていやがる。おいらを急に呼びつけやがって、畜生め!」
「まあまあ、そうお怒りになりなさんな。今日は積年だった、その怒りを解消してやろうってえことで、お前を呼んでやったのだからなあ」
「調子のいいことばかり抜かすな、この蛸!」
「なんだとお、誰が蛸だ!」
「お前に決まっているだろ!」
「おうおう、なんだってんだ!」
「へい蛸ビスケ、やり合おうってのか!」
口喧嘩を続けるショコラビスケとスティーマビーンズである。今にも殴り合いが始まりそうな、悪い雰囲気が漂うのだった。