《★~ ショコラビスケの男気(五) ~》
今から三年と数ヶ月前、ローラシア皇国の護衛官のうち、三千の竜族兵がパンゲア帝国に贈られた。その際に退官給金として、金貨四百枚が与えられた。パンゲア軍での待遇は評判が高かったこともあり、全員が喜んで帝国へ向かったという。
けれども、彼らが不当に扱われている現状が明るみとなっている。そのことでオイルレーズンも気に病み、どうにかできないものかと、これまで深く考えを巡らせてきた。
魔石を壊す方法について、オイルレーズンは一つの策を持っている。それには危険が伴うため、話すことに躊躇逡巡を感じていた。
しかしながら、ショコラビスケが「自らの命に替えてでも仲間を救いたい」と本心で思っているのだと知り、オイルレーズンは、少なからず心を打たれている。
「キャロルや」
「はい」
「ショコラが命を落とさず魔石を壊すことができるとすれば、たとい危険があっても、それに挑む勇気があるかのう」
「え、どういうことですの!?」
「あたしが以前、八百万呪の制裁でも、純粋な心を持つ人族なら許して貰えるという話をしたことは、今も忘れておらぬか」
「はい、覚えています。それから、あたくしは、魔女の存在がほとんどなく、人族に近いというお話も」
キャロリーヌは、自分なら魔石を破壊しても死を免れると思うのだった。
「あたくしが壊すことにすれば、よろしいのですね?」
「いいや違う」
「えっ、違いますの!?」
「キャロルの腕力で魔石は壊せぬ。じゃが、ショコラなら容易いこと」
「でもそれでは、ショコラビスケさんのお命が、奪われてしまいましてよ?」
「いいや、そうならずとも済む方法がある。どうすればよいかのう」
「ええっと……」
キャロリーヌは少し考えてみるけれど、思い当たらない。
「水鏡じゃよ」
「あ!!」
「分かったかのう?」
「はい、分かりましたわ! あたくしに、水鏡でショコラビスケさんの印象を映すようにしますのね?」
「そうじゃとも」
「水鏡ってえのは、一体なんですかい?」
突如、ショコラビスケが問い掛けたので、オイルレーズンが説明する。それは彼にとって、少なからず難しい話だった。
「よく分からねえが、水鏡とかいう魔法を使って壊せば、この俺は死なずに済むのですかい?」
「そうじゃよ」
「おうおう、それなら遠慮なく叩き壊してやれるぜ!」
意気揚々と叫ぶショコラビスケ。
その一方で、キャロリーヌは、気掛かりな様子を見せている。
「キャロルや、どうかしたかのう?」
「あたくしは、その先の生涯、ずっとショコラビスケさんの印象が映ったままとなりますのね……」
「その点の心配はいらぬ。効果が数日で消えるようにすればよい」
「えっ、そのようなこと、できますの!?」
「混成魔法じゃよ。純水系統と月系統、二人の魔女が詠唱することで、刻限を定めた魔法を施せるのじゃよ」
「まあ、それなら安心ですわ」
「キャロルに、死ぬまでショコラの印象を背負わせるなぞ、そんなに酷なことをする訳には、いかぬからのう」
「おうおう、俺の印象がそんなに嫌かよ!」
抗議せざるを得ないショコラビスケである。
「あら、そういう意味ではありませんのよ。あたくしのように非力な人族には、お強いショコラビスケさんの印象が、不釣り合いに思えましたものですから」
「そうだったのですかい。誤解しちまって悪かったなあ」
「いえ、お気になさらずに」
「おうよ。そんじゃ問題はなにもねえぜ!」
ここにオイルレーズンが口を挟む。
「ショコラや、まだ一つ残っておる」
「がほっ! そりゃあ、なんですかい?」
「水鏡でショコラの印象をキャロルに映すには、ショコラに強い感情を持っている者から、その思いを奪わねばならぬ。魔石の呪いを向けさせるのじゃから、ショコラのことを激しく憎んでおる者を選ぶ必要があるのじゃ」
「おう、それなら心当たりはありますぜ。昔馴染みで、ちょっとした諍いから大喧嘩になったのですが、奴は、今でも俺のことで怒ってやがる」
「ふむ。その者に頼むとしようかのう。金貨一枚でなら、どうじゃろうか?」
「あんな奴に、お代を渡すのですかい?」
「協力して貰うのじゃからな。しかも、それでショコラに対する怒りも消え、仲直りができるわい。ふぁっははは!」
「そりゃあ、まさに一石二鳥ですぜ! がっほほほ!」
自分にとって、あまりにも都合のよい方向へと話が進んだので、この上なく喜ぶショコラビスケである。




