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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART4 パンゲア帝国の脅威》暴威を振る舞うパンゲア帝国
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《☆~ パンゲアの歴史(六) ~》

 フォカッチオ四世は、少年時代から好んで乗馬をしていた。

 しかしながら、単に乗るための動物くらいにしか見ておらず、乗りこなすことができれば、どのようなお馬でも構わないのだった。遠駆けの際には、数頭を連れてゆき、お馬が疲れると、少しの躊躇逡巡ヘズィテイションすらもなく見捨てるという、非情極まりのない振る舞いをする。そういう態度だから、お馬たちに嫌われてしまう。

 ブレドンバタが王室に連れ帰った白馬に対して、誠に珍しいことだけれど、フォカッチオ四世が興味を示す。


「鹿狩りに出掛け、馬を捕らえてきたか?」

「兄さま、お聞き下さい。こちらは、アマギーの山で知り合った若い魔女族、レアレイズンさんです。なにか特別な事情があるらしく、別の悪い魔女が唱えた魔法スペルのせいで、このように、白いお馬の姿になりました」

「そうか、なかなかに面白い話だ」

「他人の不幸を、そのように面白がってはいけないと思います」

「なんだと、このオレさまに、説教サーモンする気か!」

「いえ、そのようなつもりなど……」


 国王でもある兄に、ブレドンバタは、いつも言い負かされる。この日もまた、そういう流れになってくるのだった。

 フォカッチオ四世は、ますます増長し、弟を困らせようとする。


「ならば、オレさまへ忠誠の心を示せ」

「どのようにすれば、よろしいのでしょうか?」

「その白馬を、オレさまに譲るとよい。そうすれば、見過ごしてやろう」

「どうかそればかりは、お許し願います」

「なぜだ?」

「ボクは、レアレイズンさんを、愛してしまったのです」

「馬ではないか!」

「今はこのようなお姿でありますけれど、きっとボクが、元の美しい女性に戻して差し上げます。そうしてから、結婚して貰いたいと考えております。ですから兄さま、お諦めになって下さい」


 全身全霊で懇願するブレドンバタに対して、フォカッチオ四世は、腰にいている剣を抜いて構えた。


「命令だ、馬を譲れ」

「……」

「どうした? 返答せよ!」

「はっ、分かりました。しばらくお預けしましょう。ですけれど、レアレイズンさんが元の姿に戻ったら、ボクにお返し下さいませ」

「どのようにして戻すつもりだ?」

金竜逆鱗きんりゅうげきりんという万能の特効薬を与えれば、魔法の呪いを消すことができ、それで、お姿は戻るそうです」

「よし、それで構わぬ」

「ははっ!」


 ブレドンバタは、白い牝馬を兄に託し、自らが首領キャプテンになって探索者イクスプローラ集団(‐パーティ)を作り、金竜討伐のためにエルフルト王国のアイスミント山岳へ出掛ける。

 その一方で、フォカッチオ四世は、王としての職務を放り出し、この先、乗馬に明け暮れることになったという。

 アイスミント山岳へ向かったブレドンバタの集団は、そこで金竜を見つけ勇敢に戦ったけれど、面子フェイスのうち八人が業火で丸焼きにされて命を落とす。ブレドンバタと副首領のヨウク‐デッシュだけが、いわゆる「命辛辛いのちからがら」逃げ延び、生き残ることができた。

 この頃、パンゲア帝国は既に傾いてしまっており、東のメン王国から攻め込まれたことで、国土の広い範囲が荒れ果てているのだった。やっとの思いで帰国したブレドンバタは、凄惨な光景に言葉を失わざるを得なかった。

 フォカッチオ四世も、武装乙女ヴァルキリーと名づけた自慢の白馬に騎乗して戦ったけれど、メン王国側の将軍に、あっけなく討ち取られてしまう。王を失って負けたパンゲア帝国は、かつてダンプリング王国があったゴンドワナ地方をメン王国に譲り渡すことで、終戦の協定とした。

 その後、フォカッチオ四世の子が王位を継承したけれど、まだ幼いため、しばらくの間は、ブレドンバタが国を統治する役割を担った。そうしてパンゲア帝国は、少しずつ平和と豊かな暮らしを取り戻すこととなる。

 ここまでを聞いたキャロリーヌは、ふと疑問を口にする。


「ヴァルキリーさんは、どうなりますの?」

「メン王国の王に献上されたのじゃよ」

「ブレドンバタさんとは、離れ離れですの!?」

「そうじゃけれど、今度はメン王国が傾く。王のラザーニャ三世が、フォカッチオ四世と同じで、乗馬にうつつを抜かす」

「あらまあ!?」

「国を傾けることになったのでな、ヴァルキリーは、《傾国の白馬》と呼ばれるようになり、この物語が今に伝わっておるのじゃ」


 コナ民族の地でパンゲア帝国の暴威が続いた。若い王、フォカッチオ五世が成人して国を統治するようになると、ゴンドワナ地方を巡って、メン王国を相手に再び交戦状態になった。

 それ以降、パンゲア帝国とメン王国は、同じ民族でありながら、いわゆる「油と水」の関係のようになってしまい、現代まで九百年間、なにかにつけて争いを起こしてきたという。

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