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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART4 パンゲア帝国の脅威》暴威を振る舞うパンゲア帝国
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《☆~ 鴨しゃぶ鍋 ~》

 宿所の調理場にキャロリーヌたちが移動した。ハタケーツ大統領から贈られた食材を運んできている。

 まず平鍋に水を張り、木の実と発酵豆油(ソイソース)を加え、あまり強くない火でゆっくり温める。その間に、鴨肉の塊を薄切り(スライス)する。あとは葱を一口の長さに刻むだけで下拵えが済む。

 夕餉の準備をキャロリーヌに任せることにしたオイルレーズンが、一人で宿所の庭に出ている。

 暗くなり始めた空の南東を見上げていると、大きな白い鳥が疾風のように降下してきた。使い鷲のシルキーである。


「きゅれりぃー!」

「おお、ご苦労じゃったのう。いつも助かっておるわい。ふぁっはは」

「きゅえ、くうっこぉ」


 オイルレーズンは、相手が親しい動物であれば、その者が話す言葉を寸分の狂いもなく理解できる。例えば、シルキーが最初に言った「きゅれりぃー!」というのは、「ただ今、戻りました!」という意味であり、そしてオイルレーズンからの感謝に対して返した「きゅえ、くうっこぉ」は、「いいえ、どう致しまして」という謙遜を表わす言葉なのだった。

 一方のシルキーにしても、人族や亜人類の話す言葉の意味そのものを理解しているかどうかは不明だけれど、少なくともオイルレーズンが胸に抱いている気持ちを察していることは、紛れもなく確かなことだと言えよう。

 兎も角、オイルレーズンは、シルキーの脚に結びつけられている伝書を、丁寧に解いて開き、その文面を黙読した。

 ここに突如、キャロリーヌが現れる。


「二等栄養官さま、夕餉の仕度は整いましてよ」

「おおキャロルや、シルキーに鴨肉を、やってくれるかのう」

「はい、分かりました」


 キャロリーヌは、急ぎ調理場へ戻り、十切ればかりの薄切り肉を載せた小皿を手に持って、またこちらにやってくる。

 その間ずっとオイルレーズンの腕に留まって大人しく待っていた白頭鷲ボールドイーグルの口元へ、キャロリーヌの細い指で摘まれた薄切り肉が一枚ずつ運ばれる。

 シルキーは、極めて利口な鷲なので、キャロリーヌの指を噛んでしまわないように、細心の注意を払いながら鴨肉をついばみ、とても美味しそうに食べる。

 こうして、白頭鷲は用意された薄切り肉を完食した。


「きゅいぃ、きゅっきゅ」

「どう致しまして」


 満足そうなシルキーに対して、笑顔で言葉を返すキャロリーヌ。

 オイルレーズンの孫だけのことがあって、彼女もまた、彼の言っていることをよく理解できているだった。今の「きゅいぃ、きゅっきゅ」を人族の言葉にすると、「ごちそうさまです、とっても美味でした」という意味になる。


「シルキーや、暗くなってしまわぬうちに、気をつけて寝床へと帰るがよい」

「きゅい!」


 オイルレーズンの言葉を聞いたシルキーは、指示に従い直ちに飛び立つ。


「さあて、あたしらも鴨料理を食べるとしようかのう?」

「はい!」


 二人は調理場へ行って、用意した鍋と、鴨肉や葱を載せた皿を、彼女たちの借りている居室へと運ぶ。

 この宿所には、すべての居室に卓上(テイブル‐)焜炉ストウヴが備わっている。それに弱い火を点けて鍋を置き、一口の長さにした葱を、切り口が上下になるように立てて並べる。

 少しすると、汁が穏やかに煮え立ち、塩味を含む甘い香りと、葱にしては上品な匂いが漂ってくる。


「ふむ。最上級の発酵豆油と、香りの高いポワロ葱だけのことがあるわい」

「はい、とてもよい風味がしていますわ」


 鴨肉は、煮ると硬くなってしまうので、長い時間を掛けて煮込むよりも、卓上に用意した鍋の熱い汁に、薄切り(スライス)肉を一枚ずつ浸して、まだ柔らかいうちに食べるのが格別ベストだと言われている。そしてポワロ葱は、あまり煮込み過ぎないで、歯ごたえの残るくらいが丁度よい。

 キャロリーヌとオイルレーズンは、いわゆる「割り箸」と呼ばれる竹で作った二本の棒を使い、鴨しゃぶ鍋を味わう。

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