《★~ コナ民族の主食 ~》
現代の人族は色々な食材を調理して食べているけれど、民族の違いによって日常よく食べる食材、いわゆる「主食」も違う。
グレート‐ローラシア大陸で、パンゲア帝国とメン自治区が位置する北東の領域には、大昔から小麦が自生している。その地域一帯に住むコナ民族は、小麦を主食にしてきた。
千年ほど昔までのコナ民族は、小麦を粒のままで鍋のお湯で茹でるか、または釜の火で焼いて調理し、髄塩の乾燥粉末で味をつけ、食べていたらしい。
小麦は一年に一度だけ実を結ぶ。それを採集したコナ民族は、沢山の壺に詰めて保管し、少しずつ食べながら暮らしていた。
ある日のこと、クキング家の幼い子が、貯蔵庫から壺を一つ持ち出して、石台に麦粒を溢し、丸い石で叩いて砕く遊びを始める。これを目撃した母親のグルテンが、息子に「食材を玩具にしてはなりません」と叱りつけ、即刻やめさせる。
グルテンは、大切な食材を僅かでも粗末にしてはいけないと思い、砕かれて白い粉になった小麦を回収することにした。
けれども、平たい石台の上に散らばった粉を残らず集めることは難しいため、水を少しばかり垂らして濡らし、手でよく捏ねて一つの塊にした。この名案が功を奏し、ほとんど無駄とせず、丸い塊にした小麦を貯蔵庫に保管しておく。子供が二度と勝手に入れないように、出入り口の扉を簡単には開けないように工夫を凝らす。
翌朝になってグルテンは、小麦の塊を釜で焼くことにする。それは二倍ほどに大きく膨らみ、とても甘い香りが漂う。表面が少しばかり硬くなっていて歯ごたえがよく、逆に中身は柔らかく、口に含むと溶けるのだった。
あまりの美味しさに驚いたグルテンは、夫と息子にも食べて貰う。彼らもグルテンが思った通り、初めての食感と味わいに驚愕せざるを得なかった。この事件が、やがて麺麭の発明に繋がるのだという。
興味深い逸話を聞いたキャロリーヌは、普段なに気なく口に入れている身近な食品に、そのような誕生の経緯のあることに、少なからず感心する。
だから話してくれたオイルレーズンに、感じたことを伝える。
「まさか幼い子の、ちょっとした遊びごとが、新しいお料理の発見に結びつくだなんて、あたくし、思いも寄りませんでした!」
「子供の遊びのままで済めばよいのじゃが、料理というのは、大人の争いへと発展する危険も孕んでおるわい」
「どういうことですの??」
驚きと疑問を抱くキャロリーヌである。
そこでオイルレーズンは、麺麭の発明に続く、別の料理について語る。
「麺じゃよ」
「えっ、麺類のことですの?」
「そうじゃとも」
「でも、それがどうして争いなぞに、なりますのかしら?」
「過酷な話になるのじゃが、それでも続きを、聞きたいかのう」
「はい。あたくしも調理官を目指した者ですし、お料理についてのお話であれば、少しばかり過酷でも、知りたいと思いますわ」
キャロリーヌが聞く意欲を示したので、オイルレーズンは話を続ける。
麺の発明そのものは、単純なことに端を発する。小麦の粉を水で練り塊にしたものを、焼いて麺麭にするのでなく、鍋のお湯で茹でたのが最初だという。
しかしながら、丸い塊の外側は溶けてしまい、そして中身が生茹でになるものだから、あまり美味しくは仕上がらなかった。そこで細長い棒状に加工してから茹でる方法を思いつくのだった。これが現代の乾麺に繋がる。
「麺麭も麺類も小麦の粉から作られることは知っていましたけれど、起源を知れてよかったと思います。それにしても、新しくお料理が生まれたことに、なにか差し障りがありますの?」
「大袈裟な言い方になるがのう、民族の分裂じゃよ」
「ええっ!!」
「コナ民族は、麺麭を主食にする集団と、麺を主食にする集団、二つに分かれてしまった」
「主食が違うことで、そのように??」
「ふむ。現代に至るまで、西部のパンゲア帝国と東部のメン自治区が紛争を産んできたのには、そういう事情があってじゃよ」
「まあ!?」
好みの料理が異なるだけで、どうして争いになってしまうのか、理解のしようがないキャロリーヌである。
やり切れない思いは留まらず、もし本当に料理が戦争を引き起こす要因になるとすれば、とても悲しいことだと痛感せざるを得ない。
 




