《☆~ ベイクドアラスカの野望(二) ~》
第一演習場で、しばらく続いていた大音響が、ようやく鳴りやむ。
蒼毛のお馬、蒼色業火号の背中から、ベイクドアラスカが、威厳に満ちた声を発する。
「衛兵たちよ、しかと聞け。女王陛下の大英断遊ばした、お御覇道を伝える」
サトニラ氏から中継され、この言葉も順番に百万人へと伝わってゆく。
こうしてまた一つ、ベイクドアラスカの演説が始まった。
「メン自治区の西半分、パンゲア帝国に親しい態度を示す者たちが占拠している領域を、正式に、独立国家《西メン国》として認める」
まずメン自治区を東西二つに引き裂き、そのうち西側に、一時的な国家を建て、軍事同盟を結ぶ。それには、ローラシア皇国へ攻め込むための足掛かりを作る狙いがある。
この戦略を端緒にし、ベイクドアラスカの計画が、いよいよ現実のものとして動き出す。
「本日、パンゲア帝国軍は、東へ向けて第一大隊から第四十大隊まで、四十個を派遣する。西メン国の軍勢と合流し、反パンゲア帝国派どもの残るメン自治区、東部の地域を、一日で制圧せよ」
二日前にベイクドアラスカが決めた、隣国ローラシアを百万の軍勢で攻め滅ぼすための第一段階、いわゆる「布石」ということ。
その先、北と東からローラシア皇国へ一気に攻め込み、数日のうちに滅ぼす作戦の一環になっている。
表向きは女王陛下の大英断として話されているけれど、実質は、専制君主となったベイクドアラスカが胸に抱く野望、この大陸を支配しようという策謀が伝えられているに過ぎない。
「勇猛果敢な衛兵たちよ、奮闘し、必ずやパンゲア帝国に、勝利をもたらせ」
ベイクドアラスカは、この言葉で演説を締め括った。
四十個の大隊、十万の衛兵からなる隊列が、東へ向かって進む。こうして、東部メン自治区への侵攻が始まるのだった。
・ ・ ・
ローラシア皇国宮廷、第四玉の間で、五人の一等官および二等栄養官のオイルレーズンが、皇帝陛下の御前に整列している。
一等政策官の地位にあるチャプスーイが話す。
「昨月、二十四日目に発生しました案件、水準の二‐バゲット三世骨折事故に関して、保留となっていました、一等管理官の処罰について、これより決します。一等管理官を放免とすることに賛成される方、挙手を願います」
四人の一等官とオイルレーズンが賛成した。
ジェラートは、自身のことだから、あえて手を挙げないのだった。
「では、一等管理官を放免とすることに反対される方は、挙手して下さい」
今度も、ジェラートは手を動かさない。
「賛成五、反対なし、浮動一です。この結果に従いまして、皇帝陛下の、ご意向を仰ぐことと相成りました」
シャルバートたち六人が息を飲み、陛下の貴いお言葉を待つ。
「一等管理官の処罰、これ、放免とすべし」
ジェラートを含む六人が手を打ち鳴らす。
拍手の音が鳴りやむのを待ち、チャプスーイが宣告する。
「一等管理官の処罰について、放免と決しました。これにより、案件、水準の二‐バゲット三世骨折事故は、すべて解決と相成りました」
皇帝陛下に向かって、皆が深々とお辞儀し、順に退出してゆく。
間もなく六つ刻を迎える。本日、第七月の十三日目は黄土の日なので、宮廷官の大半が、この刻限に仕事を終える。
栄養官は忙しいため、昼餉の後も働く者が少なくない。キャロリーヌとオイルレーズンも、普段通りであれば、その要員として加わっているけれど、この日ばかりは違うのだった。
明日、エルフルト共和国で、ハタケーツ大統領の主宰によって、華燭の典が開かれる。結婚するのは、大統領の息子とロッソ‐ヴィニガ。
その式典に、キャロリーヌとオイルレーズンが招待されており、二人は、今からエルフルト共和国へ向かうことにしている。
 




