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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《★~ 女王就任式(四) ~》

 傍観すると決め込んでいたショコラビスケだけれど、同じ竜族仲間が困り果てている姿を見過ごす訳にいかないと思い立ち、声を上げようとする。

 しかしながら、マトンの方が僅かに早く、シラタマジルコに話し掛ける。


「僕でよければ、相談に乗るよ」

「え、マトンさまが!?」


 悲愴な面持ちだったシラタマジルコの顔に、少しだけ輝きが戻った。


「そう、僕がね」

「どうして、あたいなんかに??」

「僕は、剣なら誰にも負けないつもりだよ。でも、淑女レディの涙には弱いのさ」

「お強くて、しかもお優しいのね」

「このマトン‐ストロガノフは、常に、そうありたいものだよ」

「ふん、まったく気障り(アフェクテド)ガイだぜ、マトンさんはよお」


 黙っていられなくなり、ショコラビスケが横槍を入れてきた。


「けど、相談に乗るって、なにか方策でもあるのか?」

「ない」

「ねえのかよ! あると思ったのに、これじゃ、万事休すだぜ!」

「そうでもないよ」

「おいおい、どっちなんだ!! ややこしいぞ!」

「僕は、《ないこともない》と言おうとした。それなのに、ショコラが途中で割り込むから、話がややこしくなる」

「まどろっこっしいなあ! 最初からハッキリ、《方策はある》と言えばいいことだろう?」

「いや、方策はない」

「やっぱりねえのかよ!!」


 ここにクレソンが口を挟んでくる。


「おいメイプルビスケ」

「違う! ショコラビスケだ!」

「どちらでもよい」

「よくねえよ!」

「分かった。ショコラビスケ、取りあえず落ち着け。今は分刻を(ノー・タイム)争う事態(・ツゥ・ルーズ)だ。マトンさんの話を、最後まで聞こうではないか」

「そうよ。黙っていなさい!」

「おうおう、了解だ。俺は傍観者バイスタンダに徹するぜ!」


 これで周囲が静かになり、マトンは話を続けることができる。


「先頭を進む小隊が、後続を待たずに皇国の中央門へ向かい、さっさと馬を譲り受ければよい。そして、すぐ取って返すことだよ」

「おお、言われてみると、その通りだな」


 クレソンはすぐに納得した。

 それに対して、竜族の二人は、あまり理解できていない。傍観者になったはずのショコラビスケが問い掛ける。


「なあマトンさんよお、それだと小隊が馬を迎えるだけじゃねえか?」

「うん、その通り。つまり方策なんて必要ない」

「マトンさま、それでは、《三十万の衛兵団で、帝国女王の白馬をお迎えせよ》と仰せになられた、王妃殿下の厳命に、背くこととなりませんか?」

「パンゲアの王妃殿下は、三十万人で白馬の手綱を引いてくるようにと、ご命令なさったのかな?」

「いいえ。そこまでは、仰っておられません」

「そうであれば、なにも心配はいらない。三十万の軍勢が、たとい形だけでも動いたのなら、女王陛下の白馬譲り受け団は立派に職務を果たしたことになる」

「そうかも、しれませんね」


 シラタマジルコが、ようやく理解し始めた。

 その一方で、ショコラビスケは、まだ腑に落ちない。


「そんな理屈で通るのかよ?」

「いや、ちょっと考えれば分かることだよ」

「人族はいつもそうだ。俺ら竜族には、考えが及ばねえことだ。なあ、姐さん」

「さすがマトンさま! おつむがよろしいこと。うふふ」


 兎も角、衛兵団は、なんら特別なことをする必要もなく、単にお馬を迎えるという、いわゆる「無為無策」で対処すればよい。それを知ったシラタマジルコは、平常心を取り戻すことができた。

 その一方で、ショコラビスケは、納得できない。


「おいおい姐さん、俺のことは無視かよ!」

「あらあんた、まだいたの?」

「いたぜ! ずっといるんだ、俺さまが、ここになあ!」


 叫ぶショコラビスケを、マトンもシラタマジルコも、一切相手にしない。


「それはそうと、皇国の中央門へ向かうのかな?」

「いいえ、あたいは、衛兵団の先頭を見送る職務を済ませたら、すぐに帝国王室へと帰らなければなりません。そうしないと、死んでしまいますから」

「首を跳ねられるのかな?」

「そうではなく、実は、あたいたち……」

「どうしたの?」

「あっ、今の言葉は、聞かなかったことにして下さい」

「そうかい。分かったよ」


 マトンは、シラタマジルコの心中を察し、それ以上を尋ねない。


「さあショコラ、僕たちは宿屋へ帰ろう」

「おうよ。それじゃシラタマの姐さん、いつかまた、どこかで会おうぜ。それまで生きていろよ」

「お前も、せいぜい元気でいろ。マトンさん、どうかお健やかに!」

「うん、ありがとう」


 マトンとショコラビスケは、シラタマジルコに見送られる。

 彼らは、検問を済ませ、国境門を通りローラシア皇国の地へ戻った。

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