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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《★~ 帝国女王の白馬(四) ~》

 魔女族は、外見の特徴で人族の女性と変わるところが少ないけれど、魔力を込めて唱える言葉、すなわち魔法スペルを使える能力を持つことが、最も顕著な違いだと言えよう。

 その他にも、魔女年齢で百歳を過ぎている者は、人族と違って、なにか動物の肉を毎日欠かさず食す必要がある。肉食をしないことには、彼女たちの身体が、おそろしい「魔女レディ漏れ(‐リーク)」と呼ばれる症状を起こしてしまう。そうなると、魔力を少しずつ失って徐々に衰え、たいていの者が、五日ばかりで死に至る。

 しかしながら、牙猪ボー大狼ウルフ、あるいは一つ角(ユーニコーン‐)駱駝キャメルなど、獣ばかりの肉食が続くと、お腹がもたれてしまうので、魔女たちの多くは、鳥や魚類を好む。

 帝国王室の後宮に君臨しているベイクドアラスカも、他の者たちと同じく、そのうちの一人である。

 突如、露台ここへ第一女官が現れ、用件を率直に話す。


「妃殿下、夕餉の仕度が整いました」

「そうか。今宵の主料理(メイン‐ディシュ)は、銀竜鯰ぎんりゅうなまず姿焼き(ホウル‐グリルド)だな。楽しみであったぞ、あっははは!」


 このベイクドアラスカは、魚肉を一番に好んでおり、あっさりしている白身、特に「焼き鯰」を大好物としている。

 ところが第一女官は、応対に困っているような様子。


「あのう、それが……」

「ミルクド、どうしたのだ! 余は、なにか間違っておるか?」


 険しい表情をした第三王妃を前にして、第一女官は震えながら答える。


「夕餉の予定が、銀竜鯰の姿焼きとなっておりましたことは、もちろん仰せの通り、間違いございません。妃殿下は、常に正しくあられますから」

「そうか。では、どうしたのだ?」

「鯰の方に都合が、つきませんでしたもので……」

「まさか、獲れなかったと申すのか!」

「はっ、まさしく、その通りにございます」

「一匹もか!?」

「はい、獲れなかったのです」


 このような不祥事を招くことになった経緯を、ミルクドは、全身全霊で説明しなければならない。

 本日、魚釣りを趣味にしている政策官長のバトルド‐サトニラが、銀竜鯰を得るために、帝国王室の敷地内にある黄土オークル色湖畔(‐レイクサイド)と呼ばれる沼地へ出掛けていた。

 ところが現場に到着して早々、不注意で足を滑らせ、泥沼へ落ちてしまう。泳ぎが不得手なため、溺れ死ぬところだったけれど、数人の部下による助けで、サトニラ氏の命は救われた。つまり、あの剃髪者は、いわゆる「彼は(ヒー・)九死に(ナロウリ・)一生を(エスケイプト)得た(・デス)」というほどの、大きな危機に瀕したということ。

 そういう事情があり、ずぶ濡れで泥まみれになった彼らは、まったく収穫のないまま引き返してきたという。

 話を聞き終えたベイクドアラスカは、思わず、自分の膝を手で軽く「ポン」と叩かざるを得ない。


「そうか! すべて合点がいったぞ。沼の水に浸かって身体が冷えたのと、不浄な泥を飲んだせいで、あの者は、お腹痛(スタマクエイク)を患ったのだな?」

「はい、仰せの通りです。鮮やかにして、実にお見事なご推察、さすがは、ご聡明な妃殿下であらせられます。このミルクド大きく感服、致しましてございます」

「あっはははは、そうであろう。そうに決まっておるわ。あははは!!」

「ええ、そうであります。そうでありますとも!」

「うん、よし! そういう事情とあっては仕方あるまい。主料理が別のものでも、今宵ばかりは許すとしよう。あはははは!」


 ミルクドが、銀竜鯰の代わりとして、夕餉の主料理に「金鶏きんけい炙り(ロウスト)脚肉(‐レグ)」が選ばれたことを、丁重な態度で伝える。

 そうすると、ベイクドアラスカは、いっそう顔をほころばせる。


「よい選択をしたものだ。調理官長を褒めてやろうぞ。あっはははは!」


 なにしろ、その料理は、二番目の好物にしていて、しかも、食すのは二十日ぶりだから、喜ぶのは当然のこと。

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