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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《★~ シェドソーメンの売り込み ~》

 もうすぐ八つ刻になる頃、ローラシア皇国の宮廷門に、一等政策官の従妹であるという、シェドソーメンと名乗る魔女族が現れ、立ち番に取り次ぎを頼んだ。

 知らせを受けたチャプスーイが、急ぎ門前までやってくる。


「シェドさん、お久しぶりです。お健やかに、過ごしていましたか?」

「はい。お陰さまなことに、嫁ぎ先では皆さまが、たいそう親切にして下さいますし、占い小屋(フォーチュン‐テラ)の職を続けることもお許し頂けましたの。ですから今は、一つの不自由もなく、幸せにしておりますわ。ほほっ」

「そうですか。なによりのことで、よかったです」

「ありがとう」


 肌は透き通った白で、薄く(ペイル)潤う水色(タークウォイズ)の髪も、見栄えがよい秀麗な魔女である。少しばかり歳を取っているけれど、容姿も、声や振る舞いから漂う気品も、すべて魅力は以前より増している。

 かつてチャプスーイは、この従妹に対して密かに熱い思いを抱き、求婚の機会チャンスを窺っていた。

 しかしながら、彼がもたもたしているうちに、この魔女は、別の人族男性と結婚することとなり、今はメン自治区で暮らしている。かれこれ六年ばかりが過ぎた。


「それはそうと、突然呼びつけてしまって、今日は済みませんでした」

「いえ、従兄妹同士ですもの。それより、この品をお納めになって」


 シェドソーメンが、手に持っている包み(パースル)を差し出す。


「おや、それは??」

「嫁ぎ先がお作りし、大陸の各地へ向けてお売りしております、極細乾麺(スィン‐ヌードル)ですの。どうぞ、ご賞味なさって下さいまし」

「おお、聞いたことがありますよ。一時期は、買い求める者がとても多くて、製造も追いつかないくらい、よい評判となった食品でしょう」

「そうですの」


 包みの中身は保存食だった。メン自治区で採れる良質の小麦と髄塩ずいえん魚油ぎょゆから作られる、糸くらいに極めて細い線状の乾燥麺を五百本ほどで束にして、合わせて二十四の束が紙製の箱に詰まっている。

 二束を一食分の目安にして、お湯が煮えたぎる鍋の中で茹でて調理し、それとは別に用意する、笠茸の成分と塩分が効いた汁に浸せば、たいそう美味だという。特に暑い季節は、冷たくして食べると、涼も取れて格別な逸品となる。

 そういう話を、チャプスーイは人伝に聞いたことがあるけれど、一度も食していない。従妹が手土産のつもりで持参してくれたのだと思い、喜んで受け取ることにする。


「遠慮なく頂くよ」

「どうぞどうぞ。でも、近頃は、以前のように、そんなに沢山は売れなくなっておりますの。できましたら、今度お買い求め願えませんかしら。ご注文の伝書を一つお送り下されば、こちらの地域でしたら、翌日にお届けできますわ。お代は、品をお渡しする際に、頂戴することとなっておりますの」

「は、はぁ……」

「お頼みしましたわよ?」

「はっ、ではまた、必ず……」

「ありがとうございます。ほほっ」


 単なる手土産ではなく、いわゆる「売り込み」の道具アイテムだったのだと、今になって気づくチャプスーイである。


「ところで、水鏡アクワミラを掛けるお馬は、どちらに?」

「はい。今からお連れします。さあ、こちらです」

「あのう」

「なっ、なんでしょう??」


 チャプスーイは、この魔女から、さらになにか頼まれるのかと思った。


「水鏡を施して、効果を引き出すためには、お馬に()()()()を持たれるお方が必要となりますの。しかも、そのお方から、思いを根こそぎ奪うこととなります。知っていらして?」

「あ、はい。水鏡という魔法スペルについて教えて下さった、宮廷官の女史から、その話も既に聞きました。そして、馬を強く愛している男性もいまして、本人から承諾を頂けております」

「そう」

「えっと、なにか他に、お尋ねになることは?」

「いえ、ありませんわ」

「ああ、よかった。では参りましょう」

「はい」


 こうして二人が並び、厩舎のある方へ向かって歩き始める。

 チャプスーイの頭には、先日もパンゲア帝国からの客人を連れ、この先から続く曲線カーヴ状の道に沿って同じように進んだ記憶が、蘇ってくるのだった。

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