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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《☆~ シャルバートの話(四) ~》

 遠い少年の頃に戦地で出会い、心を躍らせることになった少女との淡く切ない思い出を、シャルバートが周囲の者たちに話して聞かせる。


「医療官と護衛官たちからなる救援部隊は、儂に少しばかりの水と食料を与え、戦場の先へと進んだ。儂は、自らの足で帰還しなければならなかった。途中で、休憩を挟みながらな」

「馬車に乗せては、貰えませんでしたの?」

「伯爵家の息子であっても、当時の儂は、三等の護衛官だったからな。馬車に乗れるのは一等官か、せいぜい二等までだ」


 ローラシア皇国は、戦争に勝利したけれど、色々と損害が大きく、特に、お馬の数は激減していたのだという。


「大変どころのご苦労では、ありませんでしたわね」

「そうであるが、儂なぞは、よい方だよ。平民ども、四等や五等の雑兵らは、たとい大怪我をしていようとも、治癒ヒーリング魔法(‐スペル)は施して貰えず、水の一滴すら、与えられなかった。儂が、こうして今も生きておるのは、貴族の子だったからだ」

「……」


 返す言葉も見つからないキャロリーヌ。

 シャルバートは、それでも気にせずに話を続ける。


「儂は、スプーンフィードの邸へ帰り、しばらく休息することにした。しかし、どうしても、あの少女のことが忘れられず、五日が過ぎて、会いに行った」

「お会いできましたの?」

「もちろんだ。そればかりか、交際を申し込み、結婚の約束もしたのだ」

「まあ、それはよかったですわね!」


 自分のことのように喜ぶキャロリーヌに、オイルレーズンが言う。


「いいや違う」

「えっ、また違いますの!?」


 これに対し、シャルバートが苦言を呈する。


「オイル婆さん、いちいち割り込むでない! 儂が話しておるのだからな」

「おお、これは済まぬこと。口が勝手に動きおったわい。ふぁっははは!」

「やれやれ、口の減らないババアだな」


 呆れるシャルバートに、ジェラートが問い掛ける。


「父上から恋愛話を聞かせて頂けるとは、思いも寄りませんでした。それで、少女との恋は、どのように進展するのでしょうか?」

「ジェラートよ、あわてるな。今から続きを話す」

「分かりました」

「それと、オイル婆さんは邪魔をするなよ。すれば、部屋から追い出すぞ」

「へいへい、承知じゃわい。ふぁっはは」

「ふん」


 シャルバートは渋面を見せ、続きを話す。


「実は当時、スプーンフィード家では、既に儂の婚約を決めておったのだ。そのため、ネクタレーズンとの結婚は、反対されてしまった」

「では、その決まっていた相手というのが、僕の母なのでしょうか?」

「そうではない。親が選んだのは、メラング子爵家のマーガリーナ嬢だ」

「あら、そのお方はもしや、あたくしのお母さま!?」

「その通り。少し後になって、メルフィル公爵家に嫁入りし、キャロリーヌ嬢の母となる女性だよ」


 ここでジェラートが率直に問う。


「そうしますと、マーガリーナさんとの婚約は、反故となりましたか」

「儂がメラング家へ出向いて、断ったのだからな」

「なんと、まさか父上が、そのようなことをなさっておられたとは」

「この儂でも、若い頃には、そういう未熟な部分があったのだ。それで当然のこと親たちは、たいそう立腹し、ネクタレーズンの家に押し掛けた上で、儂との交際は認めないのだと申し渡した。彼女には、悪いことをしたものだ」

「まあ、お気の毒ですこと」


 少しばかり沈黙が訪れたので、オイルレーズンが話す。


「その頃のネクタは、とても悲しんでおったわい。キャロルも、ジェラート殿との縁談が壊された時には、同じように辛かったことであろう?」

「はい、とても」


 スプーンフィード家は、二代に渡り三度も、婚約を解消したのである。


「済まぬことだ」

「申し訳ありませんでした」


 父と息子が反省の色を見せ、頭を下げるしかなかった。

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