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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《☆~ シャルバートの話(三) ~》

 今年は、ローラシア皇国紀年(インピアリアル‐イア)で、二千二十二年ということになっている。

 なにかの縁なのか、シャルバートは、オイルレーズンと同じ年に生まれ、あと十数分刻(ミニト)ばかりで、人族年齢の六十歳、いわゆる「還暦」と呼ばれる祝いの瞬間を迎える。

 シャルバートとオイルレーズンが生誕した、皇国紀年一千九百六十二年、ローラシア皇国は、その存亡が左右されるほどの危機的な状況にあった。隣国のドリンクが王国だった時代で、第三次ローラシア・ドリンク大戦が、八年も続いていた。

 この戦いのどこにも勝ち目は見つからず、無条件降伏を考えなければならないくらい、ローラシア皇国は劣勢に立たされており、そうすれば国家そのものが消滅してしまうという、極めて危うい状態にまで追い込まれていた。

 その時、ドリンク王国側が、条件つきで停戦協定を打診してきた。それは、エルフルト共和国が、背後から働き掛けてくれたお陰であった。

 戦争が終わり、ヒエイー山の南西をドリンク王国に譲り渡した。そしてエルフルト共和国を加えて、「三国通商条約」を結ぶことになる。

 しかしながら、十五年後に第四次ローラシア・ドリンク大戦が勃発する。だから要するに、シャルバートとオイルレーズンは、戦争を知る世代だということ。


 今、病床に伏しているけれど、ジェラートから真雁まがんの煮込み料理を食べさせて貰えて、シャルバートは、すっかり満足している。

 そして唐突に、若い頃の話を始める。


「あの戦争が終結した日、だったなあ」

「ふむ」


 当時の皇国では、健康な人族男子の志願者が、十四歳から護衛官候補生としての訓練を受けて、十五歳で官職に就いていた。シャルバートも、護衛官になって戦地へ赴いたのだという。


「ローラシア皇国の勝利で終戦となった時、儂は右足を大怪我しており、戦場の真ん中で動けなかったのだ」

「あらまあ、大変でしたのね?」


 キャロリーヌが、率直な思いを口にした。

 これに対し、シャルバートが、首を少しばかり左右に振る。


「大変なぞと一言で説明できる状況では、なかったのだぞ。それこそ、心の臓がいくつあっても足りない、それが戦地だ」

「は、済みません。つい、軽々しく言ってしまって……」

「ああ、いや構わんよ」


 肩を落としたキャロリーヌに、珍しく、優しい言葉を掛けるシャルバート。

 戦争を知らない今の若者たちには、その体験談を、どんなに詳しく話して聞かせたところで、どうしても伝わらないことが沢山あるということ。

 周囲で、オイルレーズン、ジェラート、オマールが、静かに耳を傾けている。

 シャルバートが、続きをしみじみと話す。


「そんな荒涼たる戦場跡に、医療官の少女が現れた。儂の傍に駆け寄ってきて、儂の右足に、治癒ヒーリング魔法(‐スペル)を施してくれるのだ。その時の、懸命に詠唱しておる横顔が、とても愛らしくて、儂は生まれて初めて、恋を知ってしまった」

「まあ、素敵なお話ですこと! きっと、その少女が、若い頃の二等栄養官さまでしたのね?」


 瞳を輝かせるキャロリーヌに、横からオイルレーズンが言う。


「いいや違う」

「ええっ、違っていますの!?」

「シャルバート殿が話しておられる、医療官の少女というのは、あたしの従妹、ネクタレーズンのことじゃよ」

「あらまあ、そうでしたのね……」


 再び肩を落とすキャロリーヌである。

 ここに、またシャルバートの言葉が投げ掛けられる。


「それが、よかったのだ」

「え、よかったのでしょうか??」

「そうだ。あの場に現れた少女が、このオイル婆さんだったとしたら、九死に一生を得ると同時に経験できた、儂が生涯大切に思っておる、あの初恋は、なかったのだからなあ。はははは!」

「また言われてしもうたわい。ふぁっはっは!」


 二人は、しばらくの間、楽しそうに笑っていた。

 キャロリーヌたちは、この光景を不思議そうに眺める。特にジェラートは、どうして今、かつて一度も聞かされたことのない父親の恋愛話になっているのか、まったく見当がつかない。

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