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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》ローラシア皇国の危機
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《☆~ シャルバートの話(二) ~》

 六つ刻半が数分刻(ミニト)ばかり過ぎた。特別安静部屋で、シャルバートが目醒める。

 知らせを受けたジェラートとオマールが、ここにやってきた。

 シャルバートを乗せている寝台には、取っ手(ハンドル)が備わっていて、それをジェラートが、片方の手でクルクルと回す。

 すると、寝台の頭側の半分くらいが少しずつ動いて、上の方に傾く。それによって同時に、横たわっているシャルバートの上半身も起きてくる。

 この機械仕掛けを考案したのは、やはり一級の医療メディカル道具アイテム学者(‐スコラ)と呼ぶにふさわしいオマールなのである。

 少しして、キャロリーヌとオイルレーズンが入ってくる。準備しておいた、温かい煮込み料理のお鍋を、台車に載せて運んできている。

 起き上がった寝台の背中側が部屋の入口になっているため、シャルバートには、キャロリーヌたちの姿が見えていない。


「おい、ずいぶんとよい匂いだな。儂の大好物、鳥肉とりの煮込みに違いない」

「はい、仰る通りです。父上には、早く体力を回復して貰いたく、竜髄塩を使った真雁まがんの料理を用意してあります」

「まさか、あの稀少な調味料(スパイス)が、手に入ったのか!?」


 このように驚かせることになると思ったから、ジェラートは、あえて()()()()だとは言わなかった。シャルバートの容態を考えれば、幻の合成調味料(アレンジ‐スパイス)と呼ばれる、その名を聞かせてしまうと、必ず心の臓に大きな障りがあるのだから。


「二等栄養官が、譲って下さいました」

「あのババアが??」

「そうじゃとも」

「ぬっ……」


 背中の方からオイルレーズンの声が聞こえたので、シャルバートは、言葉を詰まらせることになった。


「なにも痛めつけにきたのじゃないわい。病人に鞭を打つような真似なんぞ、この死に損ない魔女のババア、したくはないからのう。ふぁっははは、ふぁっはっは、あがっ、顎が、顎が痛くなった!」

「ははは、そちらも病人ではないか」

「言われてしもうたわい。それはどうでもよいが、まあ兎も角、一緒に煮込みを食うとしようではないかのう。あたしの顎の調子もよくなる、逸品じゃよ。キャロルが調理してくれた」

「そうか……」


 キャロリーヌは、台車の上に二つの深皿ボウルを並べて、煮込みをよそっている。

 ジェラートが、一つ目の皿と匙を手に取り、シャルバートにスープを飲ませようとする。


「さあ、召し上がって下さい」

「ぬ……」

「父上?」


 シャルバートは少しばかり迷った。

 対立している者、そして昨日は第四玉の間で「三等なぞ捨て置けばよい」と言って蔑んだ少女に、借りを作ってしまう形になるのが、少なからず不愉快だから。

 しかしながら今に限っては、大好物に対する食欲の方がまさることになる。丸一日と三つ刻、なにも口にしていないのだから、それは無理もない。


「食わせろ」

「はい、どうぞ」


 スープをすくった匙が、シャルバートの口へ運ばれる。


「ぬおっ、やはり美味だな」


 シャルバートが素直に言った。

 この様子を近くで見ているオマールに、ジェラートが尋ねる。


「肉も細かく刻まれて、軟らかく煮込まれているし、大丈夫だろう?」

「ええ、いいわ」

「さあ父上、一等医療官の許可も得られましたから、お好きな鳥肉とりもどうぞ」

「うん」


 シャルバートは、小さな肉片を口の中に入れて貰い、ゆっくりと咀嚼する。

 少しばかり黙り込み、それから掠れた声を出す。


「オイル婆さん、キャロリーヌ嬢、ありがとう……」

「ふむ」

「どうかお元気に、なって下さいまし」

「うっ……」


 スープほどに熱い涙が、シャルバートの目から溢れ、頬に流れ落ちた。

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