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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》白馬ファルキリーを巡る争い
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《☆~ 皇国の国馬(二) ~》

 キャロリーヌは、オイルレーズンの血を受け継いだ月系統の魔女族であるから、当然のこと、刻魔法タイムスペルを使いこなせる。

 先日、彼女たち探索者集団がトリガラ魔窟へ赴き、竜編りゅうあみ笠茸がさだけを採集して持ち帰った。貯蔵室に納める際、キャロリーヌによって刻短こくたんが施され、四日間のうちに、それらは二ヶ月を掛けてゆっくり乾燥させたのと同じ状態に変化している。

 すっかり軽くなった笠茸をかごに入れて、こちらの加工場に運び込んだ。数人の栄養官が集まっている。


「よい具合に、乾いていますわね?」

「うん、これは抜群の硬さだよ」


 キャロリーヌの言葉に答えたのはラビオリ。

 食材の加工を得意とする者を多く輩出してきたキュラソー男爵家の次男で、以前は調理官だったけれど、今では、こちらの職を選び、三等栄養官として勤めている。


「それでは、お願いしますね」

「よし、キャロリーヌ嬢のために、このボクが粉骨砕身、りましょう」

「あたくしのためになさるお仕事では、なくってよ?」

「ああ、そうだね。ははは」


 擂り鉢(モータ)擂り粉(パウダド‐)ウドが、ラビオリの使う道具のすべて。若いながらも彼は、既に、一流の擂り職人と呼ぶにふさわしい、確かな腕を持っている。

 粉砕できた竜編笠茸は、同量ずつ保存用の小瓶に詰めるのだけれど、その前に、錬金術を使った調合で、あと一手間を加えておく。

 働くのは、数々の有能な錬金術者アルケミストを世に送り出してきた名門、ボルシチ男爵家の三男坊(サード‐サン)、ビートである。別の栄養官が粉を正確に計量して平皿に盛り、錬金(アルケミ‐)パンの準備をして待つ彼に引き継ぐ。

 今日のキャロリーヌは、監督役を任されているので、すべての作業に目を配らなければならない。


「お鍋の火加減は、いかがでしょうか」

「そりゃもう上々だよ。このビートが腕を奮えば、上々にならない錬金鍋など、広いグレート‐ローラシア大陸のどこを探しても見つからないさ。わはは!」

「ふふ、たいそうな自信ですこと」


 いつも冗談ばかりを言っていても、錬金術に関して一流であることは、ラビオリが持つ「擂りの腕」に負けていない。

 この若い貴公子が、一転して真剣味を帯びた表情を見せる。彼の整った美貌に、心を奪われてしまう少女は多いけれど、仕事熱心なキャロリーヌには、動じるような気色が一切ない。

 早速ビートが調合を始めた。平皿の茸粉パウダを鍋に入れ、大匙一杯の海洋深ディープスィー層水ウォータを加える。そこに竜頭青豆りゅうずあおまめの乾燥粉末を一摘み落とす。

 火を強め、錬金(アルケミ‐)杓子レイドルで掻き混ぜる。こうすると、栄養成分の効果が百倍くらいに跳ね上がり、微量の摂取でも、竜族の健康を促進できるという。

 鍋の中で水分が抜けて、再び粉状になれば完了。平皿に戻して、別の栄養官に託す。

 瓶詰めして、「骨強化ドラゴン‐マシュルーム粉末」と書かれた紙片レイベルを貼る。竜族が骨の健康を維持し、しかも丈夫にする栄養素を豊富に含んでおり、調味料として役立つ。一瓶あれば、竜族向けに二千食の料理を作れるほど、優れた栄養補助食材である。収穫してきた量の竜編笠茸で、四十瓶くらいを製造できるはず。

 キャロリーヌが、一つ目の完成を見届けた後、ラビオリの傍に戻ってきた。

 突如、ここへオイルレーズンが現れる。


「どうじゃな、順調に進んでおるか」

「皆さま懸命に、お働きなさっていますわ」

「ふむ。それよりもキャロル、皇帝陛下がお呼びなのじゃよ」

「まあ、あたくしですの?」

「そうじゃとも。仕度するがよい」

「分かりました」


 少しばかり茸粉パウダを浴びてしまったせいで、キャロリーヌの髪や衣類が、ところどころ白っぽくなっている。こんな姿で玉の間へは入れないから、すぐに身嗜みを直さなければならない。

 一方、オイルレーズンは、近くで作業中のラビオリに声を掛けている。


「キャロルがおらずとも、手を抜くのでないぞ」

「もちろんですとも。見て下さいよ、ボクの巧みな擂り粉木(さば)きを」

「なにを言うか。手首の動きが粗雑クルードになっておるわい!」

「えっ、厳しいなあ……」


 一流の擂り職人と呼ばれるような腕を持っていても、老練なオイルレーズンから見れば、ラビオリは、この先も上達する可能性をまだ残しているらしい。

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