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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》白馬ファルキリーを巡る争い
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《☆~ 皇国の国馬(一) ~》

 一等政策官が、とても明瞭な意見を述べる。

 パンゲア帝国から出された要求に対し、一切応じないという、強い姿勢を見せるのが最善ということ。かの帝国王が負傷したのは、あくまで自らの不注意と、四輪車の安全確保を怠った相手側の落ち度であり、皇国こちらが責任を負う事案ではないという理屈に基づいている。

 オイルレーズンとジェラートは、これに賛同した。

 しかしながら、シャルバートの意見が、真っ向から対立する。


「同盟国との良好な関係を崩さないために、ここは一つ、パンゲアの顔を立てることだ。たかが白馬の一頭、喜んでくれてやれば、済む話ではないか」


 続いて、一等の護衛官、調理官、医療官が、シャルバートの発言を支持する方針の考えを述べる。

 本来であれば、ここで多数決を採ることになるのだけれど、オイルレーズンは、もう少しだけ話さざるを得ない。


「シャルバート殿よ。たかが白馬の一頭ではありませぬぞ。ファルキリーは元々、先代皇帝陛下のご所持。言うならば皇国の(インピアリアル‐)国馬ホースじゃったところ、メルフィル公爵家が賜わることになった。それこそ、由緒の正しい白馬ですわい」

「だが、既に違うではないか」

「そうじゃとも。今は三等栄養官の所持になっておる。その者に無断で、譲り渡すことを決めるのは、筋道に反するのでは、ないかのう?」

「ふん。三等なぞ捨て置けばよい」


 この時、たいそう珍しくも皇帝陛下が、お口を挟みになられる。


「三等栄養官を、ここへ」

「はっ、承知致しました!」


 チャプスーイが即答し、直ちに駆け出そうとする。

 しかしながら彼の動きは、老魔女の細い腕によって遮られる。


「あたしが呼びに行きましょう。なにしろキャロルは、あたしの部下じゃからのう。ふぁっははは!」


 オイルレーズンが一人、第四玉の間を出て栄養官事務所へ向かう。

 ゆっくり歩くことで、刻は十分に稼げる。キャロリーヌを連れて戻るまでには、ファルキリーを守るための良策を思いついているはず。


 ・   ・  ・


 こちらはパンゲア帝国王室の最奥、後宮内で最も絢爛豪華な王妃居室、第一ファースト王妃(‐レディ)の間である。今では、第三王妃の立場にある魔女、ベイクドアラスカが使用している。

 この後宮内へは、国王以外に男の入場が固く禁じられているのだけれど、突如、剃髪姿シェイヴィングの政策官長、バトルド‐サトニラが現れた。宦官ユーナクではあっても、この場に立ち入ることは許されていないはず。

 しかしながら、安楽椅子カンフォトチェアにいるベイクドアラスカは、彼の犯した戒律違反を黙認する。


「サトニラ、どうしたのか?」

「たった今、我が帝国王が、身罷みまかられ遊ばしました」

「ほほう、とうとう果てたのだな」

「はい」


 二ヶ月ほど前から病に伏せっていたパンゲア帝国王、バゲット三世が、先ほど息を引き取ったのだという。

 王妃であれば悲しむべきところ、このベイクドアラスカは、そのような気色を少しも見せない。そうだからといって、逆に喜ぶ様子でもない。


「知られておらぬか?」

「問題ございません」

「密かに焼いて葬り去れ。決して誰にも、知られてはならぬぞ」

「承知致しました」


 頭を下げた後、サトニラ氏は速やかに立ち去る。

 ベイクドアラスカは、近くの卓上に手を伸ばし、呼び鈴を取って鳴らす。

 かつて第一王妃に仕えていた第一女官、ミルクド‐カプチーノが、どこからか、音もなく現れる。


「妃殿下、ご機嫌麗しく、なによりです」

「うむ」

「どのようなご用件でしょうか」

「突然のことではあるが、王が退位なさり、ボンブが、その後を引き継ぐことに決した。女王の就任式は、十日後だ」


 ボンブというのは、他でもなく、ベイクドアラスカの娘にしてパンゲア帝国皇太子、ボンブアラスカのこと。生後十五年、魔女年齢で三十二歳という、まだ若い魔女族の少女である。


「祝着の至りでございます」

「細かなことは、なにからなにまで、ミルクドに任せるとしよう。帝国を挙げて盛大に行うべし。よいな」

「はい」


 第一女官は、いつも以上に恭しく丁寧なお辞儀をした。

 いよいよ、ボンブアラスカが女王の座に就き、母親であるベイクドアラスカが、実質的に専制君主となる日がやってくる。

 この帝国を動かす中心に近い人物へと登り詰めることを、ずっと夢に描き、これまで生きてきたミルクドの喜びも、一入ひとしおである。

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