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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》白馬ファルキリーを巡る争い
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《★~ パンゲア帝国からの要求(五) ~》

 ローラシア皇国宮廷では、事故や懸念となる問題の発生に対して、それが皇国にどれほどの影響を及ぼすのかを分析的に判断し、当該案件の水準を四段階に分けて扱うことにしている。深刻の度合いが大きい順に、水準の一から四までを決めることになる。

 最低水準の「四」は、各官職の責任者による采配で対処する。その上に位置する「三」だと、複数の長官が協力して事案に取り組む。そして「一」と「二」は、各官職の長官たちが皇帝陛下の御前に集まり、解決の方針を立てる。

 また、水準の一で、特別に緊急を要すると判断された案件に限り、「特」が定められることもある。過去の発生は極めて少なく、最も近い事例は三年半前に起きた「水準の特‐パンゲア帝国皇太子毒死事故」である。これは、皇帝陛下が、その場で瞬時に対応策をお決めになられる、上意下達で迅速に解決へ向かうべき事案なのである。


 案件「水準の二‐バゲット三世骨折事故」が定められてから、四日が過ぎた。

 五つ刻の少し前、パンゲア帝国の使者が早馬を駆り、ローラシア皇国の中央門にやってきた。かの国からの伝書を携えている。

 親書であれば、その国で相応の立場に就いている者が、こちらの宮廷を訪れ、一等政策官に直接手渡すのだけれど、この度のものは単なる伝書なので、中央門で勤めている護衛官に託された。それは、さらに別の者に渡され、宮廷へ届けられる。

 受け取った一等政策官、チャプスーイが直ちに内容を確認する。

 その文面は、先日サトニラ氏が言っていた「引責に代わる要求」なのだと、容易に理解できた。

 チャプスーイは、迷わず臨時会合の開催を決め、部下に指示を出して各方面へ伝達させた。


 六つ刻半を迎える。定められている会合の刻限である。

 第四玉の間で、皇帝陛下の御前に、五人の一等官とオイルレーズン、そして相談役のスプーンフィード伯爵が、四日前と同じように整列した。

 パンゲア帝国からの伝書が、チャプスーイによって音読される。


「我が帝国王に多大な傷を負わせた管理官の責任を問う。これについて、我が帝国王のお考え遊ばすところを伝える。当該管理官の首、もしくは白馬ファルキリーを、我が帝国王に差し出すべし。いずれをも差し出されないのなら、ローラシア皇国に対して、相応の報復を行うことになるであろう。パンゲア帝国、政策官長、バトルド‐サトニラ」

「わっははは! さすがは馬好きの帝国王であるぞ! 三度の讒言ざんげんに加え、骨折の痛みまで与えられたにも拘わらず、すべての屈辱を水に流し、代償として、たった一頭の白馬で手を打ってやろうという、とても寛容な心を持った人徳者。大いなる称賛を送るに値する。早速ファルキリーを贈呈することにしようではないか!」


 嬉々として大声で話すスプーンフィード伯爵である。

 これには、ジェラートが血相を変えて発言する。


「お待ち下さい。結論を急ぎますと、相手の思う壺となりましょうし」

「ぬ? ジェラートよ、なにを言うか! 一等政策官が読み上げた伝書の、一体どこに()があった? 壺はおろか、()()もないぞ!」

「僕は、そのような冗句ヂョウクを聞きたいのではありません。水準の二ですから、慎重に取り扱うべきかと」

「差し出がましい、黙れ!」

「いいえ、黙ることはできません!」


 ここにオイルレーズンが割って入る。


「お二人とも、落ち着きなされ。皇帝陛下の御前じゃよ」

「は、これは失礼を致しました!」

「ぬう、儂もだ。どうかお許し下され」


 玉の間で、口論していてはいけない。オイルレーズンに諭された父親と息子は、深く反省せざるを得なかった。

 そして、会合長チェアパースンの役割を担っている一等政策官が口を挟む。


「本件の対応につきましては、二等栄養官の言われた通り、落ち着いて、順に意見を述べて頂きましょう。まずは、この私から申します」

「ふむ。聞くとしよう」


 老魔女たち一同は静まって、チャプスーイの言葉に耳を傾ける。

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