《★~ パンゲア帝国からの要求(一) ~》
ローラシア皇国の宮廷内で、隣国の王陛下が四輪車から転落するという、前代未聞の事故が起きてから既に、およそ四半刻、つまり三十分刻ばかりが過ぎている。
テキパキと立ち動き、帰国の準備をすっかり整え終えた訪問団の一行が、宮廷門へ向かって動き始めた。
ジェラートも彼らを見送るために、後方から歩いて進むことにする。
丁度ここに、先ほども顔を出したチャプスーイが、二等管理官のオートミール‐フォークソンと一緒に現れた。
「ジェラートさん、すぐに第四玉の間へお急ぎ下さい。皇帝陛下と伯爵がお待ちになっておられますので」
チャプスーイが、深刻な表情で伝えてきた。
「客人のお帰りを、見届けねばなりせん。原因がどうであっても、この皇国宮廷で大怪我をなさったのです。誠意を込めた証として、僕が中央門まで赴き、丁重なお見送りをさせて頂こうと思います」
「そのことでしたら、私と二等管理官が、代わってお役目を果たしましょう。ですからジェラートさんは、第四玉の間へお向かい下さい」
皇帝陛下と、そして特にスプーンフィード伯爵が、詳しい事故の経緯を早く聞きたいのだという。
ジェラートは、なるべく刻を稼いで、偽りを話したことの弁明を練ろうと考えていたけれど、少なくとも皇帝陛下からのお呼びを無視する訳にはいかない。
「では、お見送りの方をお頼みします」
「分かりました」
「オートミールもご苦労であるが、よろしくな」
「は、承知致しました」
「うん」
ローラシア皇国城内へ向かうジェラートである。
チャプスーイは、オートミールを連れて、訪問団を率いる剃髪姿の男性、サトニラ氏に近づく。
「この度は、不測の事故となりましたものです」
「我が帝国王に大怪我を負わせたことに対し、スプーンフィード管理官の引責に代わる、我が帝国からの要求については、改めて後日、文書でお伝えすることとなりましょう」
「引責?」
「はい。かの管理官が、我が帝国王に対して三度も偽りを話したことを端緒として起きた事故でした。スプーンフィード氏のお命を救うには、引責に代わる要求を、お受け頂かなければ、なりませんでしょうね」
「なんですと??」
チャプスーイには、サトニラ氏が言っている「引責に代わる要求」の意味が理解できない。横にいるオートミールにとっても、それは同じことであった。
・ ・ ・
こちらは、メン自治区の南東に位置するトリガラ魔窟と呼ばれる洞窟。
オイルレーズンたちの探索者集団が、この地へ希少なマシュルームを採集しにきている。
「これも、よさそうですわね」
「そうじゃのう。立派な竜編笠茸じゃわい。ふぁっははは」
洞窟の奥はかなり狭くなっており、小柄なキャロリーヌとオイルレーズンだから、ここまで進むことができた。
残る面子二人のうちマトンが、この洞道を戻ったところ、少し広い場所で待機している。小妖魔が近づいて悪さを働くようなことに備え、警護する任務を担っている。
そして四人目の面子が、今ではすっかり正式に、探索者集団の一員となっている竜族の若者、ショコラビスケである。洞窟の入り口を見張り、キャロリーヌたちが収穫してきた竜編笠茸を横取りしようと、獣族などが狙ってきたのなら、それらを自慢の腕力で撃退する役目を任されている。
収穫篭の半分くらいが、竜編笠茸で埋まった。
「キャロルや、採集はこれくらいにして、早いが帰るとしよう」
「えっ、まだ篭が満杯になっていませんのに?」
「あたしゃ少しばかり、悪い虫の知らせを感じておる」
「まあ!?」
ローラシア皇国の宮廷で、よくない事変が起こっているのかもしれないという、暗示的な感応を、オイルレーズンが胸の内に得てしまった。いわゆる「胸騒ぎ」と呼ぶような体験である。