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第七話 お加代

 …………。


 誰じゃ? 枕許で泣いているのは、誰じゃ?


 ああ……お華か。相変わらずちっこいまんまじゃなぁ。全く、わっしばかりがシワシワの年寄りになってしもうて、敵わんねぇ。


「お加代……。わっしはな、わっしは実は……人ではなくて……」


 そんなことはほんの童の頃から知っておったよ? お華はお華じゃからねぇ。別に妖怪でも物の怪でも構わんよ。

 五十年、ずっと一番の友だちだったじゃろう? 野山を一緒に駆け回って……あれ覚えとる? 大岩鳶(おおおいわとんび)の巣から落ちた(ひな)を見つけて、気付かれんようこっそり返しに行った時のこと……。


「ああ、けっきょく親鳶(おやとんび)見つかってしもうて、追いかけられてえらい目にあったな」


 ふふふ。岩山の上まで苦労して登ったのに、頭を(つつ)かれて転がるように逃げ降りたねぇ。


 キノコ狩りで山に入って、ゲラゲラ笑いながら走り回るキノコを見つけたこともあった。あれはほんに驚いて、腰が抜けるかと思うたねぇ。


「あの笑いキノコはお爺が大喜びで薬酒を作っとったぞ。ハゲに効く言うてたけど全然効いとらんな」


 ふ、ふふっ……こらこら、死にそうな年寄りを笑わせたらいかんよ。


「隠れて野兎の子供を飼うたり、一緒にお爺の蜂蜜を盗み食いしたりもしたな!」


 たんと遊んで、喧嘩もして……楽しかったねぇ。焼きもちも焼いたんよ? わっしはねぇ、何物にも縛られておらんお華が、羨ましくて仕方なかった……。


「わっしは普通に大人になってゆくお加代が、羨ましくて仕方なかったぞ?」


 ふふふ。そうか……お互い様じゃねぇ。


「それに……わっしは、縛られておるよ……。訳のわからん使命に縛られて雁字搦(かんじがら)めじゃ。そのくせお加代が病気になっても、なんにもできやせん」


 しめい? 使命か? なるほど、道理で……。


 わっしはいつもお華が、こう……ちっこい身体で歯を食いしばって……風に向こうて、立っている気がしてねぇ。


 力になりたかったが、わっしは学もないし金も大して持っとりゃせん。


 人としての暮らしも捨てられんかったし、あんたとずっと一緒に生きてやることも出来ん。


「お加代……」


 すまんねぇ、お華。わっしは、あんたを残して死ぬのだけが、心残りじゃ。


 ああ……でも……。『心残り』言うんは良い言葉じゃねぇ。わっしはお華に……心を、残してあげられる。置いて行くから、あんまり寂しがらんでな。


「お加代……。お加代! これ、持って行け!」


 なんじゃ? 娘っ子が髪の毛引き千切ったら駄目じゃろう……? おやおや……髪の毛が……空色のお華の髪の毛が、花のツボミになりおった。


「この花はわっしの分身じゃ! わっしはまだこの花を咲かせることは出来ん。だがきっと立派に咲かせてみせる! それまで持っておってくれ!」


 ふふふ。可愛らしいツボミじゃ。あんたに良く似てる。


「お加代……」


 そうじゃねぇ。使命とか……難しいことはわっしにはようわからんよ。


 お華……。草も、虫も、獣も、人も物の怪も……。何かのために生まれてきたりせんじゃろう? ほんの偶然で生を()けて……生まれたから生きるんじゃ。立派なことなんぞする必要はなかろう? 笑って過ごしたもんが勝ちじゃ。


 やらなきゃならんことなんぞ、ありゃせんよ。そのために、生まれてきたりはせん。


 あわてて急いだら転んだり、失敗したりするじゃろ? あんたはけっこう、そそっかしいからねぇ。


 さてさて……。そろそろ眠ろうかねぇ……。お華、あの手毬唄、歌ってくれん? ほら、お華が作った、あのけったいな手毬唄。


 花も貰ろうたし、きっとようく眠れる……。



 ああ、楽しかったねぇ、お華……また明日、遊ぼうねぇ……。



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