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第二十一話 作戦と化粧

 三千年に一度咲く、優曇華という名前の花があるという。その花には『悲劇の起こる場所に咲き、人の哀しみを引き受ける』という伝説がある。


 だが優曇華は悲劇の起きるその場所に、それを起こさんがために立っている。


「わっしは優曇華の花精霊じゃ。わっしは、わっしの思う通りに生きた! そして自分で決めた今、此処で咲く!!」



 優曇華が両の足を踏ん張り、鼻息も荒く天に向かって吠えるように叫ぶ。


 誰に言うておるのやら……。だが、よう言ったわ。それでこそ、わしらの優曇華だ。

 今この時この場所で……その言葉を口にするお主であるならば、わしの役回りも無駄ではなかったかも知れん。


 これから咲こうとしておる花にしては、色気の欠片すら見当たらんがのう。




     * * * *


 

『先見の玉』に写し出された未曾有の大災害。


 わしらは二人でこれを何とかせねばならん。額を突き合わせ、手持ちの札を数え上げ、うんうん唸りながら考えた。


 わしの術で心を操り、生き物全てを移動させることも考えたが、術のかかりの悪い者や病気や怪我で動けない者もいる。老いたものや植物もどうにもならん。さすがに地面ごと全てのものを安全な場所まで運ぶのは、時間も手も足りん。


 優曇華が出した結論は『星が地面に落ちる前にわっしが砕く! 砕いた細かい破片はお爺がどうにかしてくれ!』という、なんとも豪快な方法だった。


『どうにかしてくれ!』とは、言ってくれるもんじゃのう。わしをなんじゃと思うておるのか。


「お爺はなんでも出来る偉い仙人さまじゃ!!」


 な、なんでもは出来んよ。だが……そうさのう。ここは踏ん張りどころじゃろう。無理も道理も、両方通さねばなるまいて。


 手毬の霊力を使いながら、空に向けて結界を幾重にも張り巡らせてゆく。緻密に術を編む気の遠くなるような作業だが、根を上げる訳にもいかん。


 優曇華がひとつふたつ撃ち漏らしても、持ち堪えるくらいの結界を張らねばならんからな。


 近頃はずいぶんと辛抱強くなりおったが、此奴(こやつ)はどうにも大雑把なところがある。


 わしが油汗を流しながら術を編んでいる隣で、優曇華は先見ノ玉を熱心に覗き込みながら、何やらぶつぶつと言っていた。


 耳を傾けてみれば、どうやら降り注ぐ星の数や大きさ角度や威力を数え上げているらしい。自分の霊力と照らし合わせて、順番や力の配分を組み立ているようだ。


 ほほう! 行き当たりばったりで、真正面から全力でぶち当たるばかりだった優曇華が……。


 ううむ……成長したものじゃ!!


 結界を突貫作業で編み上げ、身辺整理もそこそこに、一番速い雲を呼んで飛び乗る。


 この近辺で一番高い山へと向けて、ひたすら雲を駆る。


 空を駆ける雲の上で、優曇華が紅を引きはじめた。目尻を赤く染める、嫁入りの化粧だ。


「狐のお婆に教えてもろうたんじゃ。わっしが花咲くということは、嫁入りみたいなもんじゃろう?」


 嫁入り化粧は、恥じらいや初々しさを彩るもののはず。優曇華は見かけだけは儚げな美少女だが、何か違うのではと思わずにはいられない。


「南の島の戦衆の、戦化粧のようじゃぞ」


「それも間違いじゃないな!」


 あははと大口を開けて笑い、口もとの紅が大きくはみ出す。


 人を喰らったあとのような口に、思わずため息が出る。


「そんな悪鬼の形相で空を舞ったら、違う伝説が出来てしまうぞ?」


「伝説なんてもう真平ごめんじゃ! そんなもんはわっしのことを知らない誰かが話すこと。なんと言われようと知らん!」


 開き直った優曇華が、はみ出た紅をぺろりと舐める。その様子は、どこか匂い立つような色香があった。


「良い塩梅の女っぷりじゃの。天狗や大婆に見せてやりたいわい」


 二人の名前を出すと、途端に幼子の顔になる。優曇華はふへへと笑い、薬指でもう一度紅を引き直した。



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