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踏切のそばに

作者: 雪 里 枝


 街灯の灯りも頼りなく、群青色の空が広がる宵闇の中‥‥そこは薄暗い踏切。 渡り始めた男の目に、血まみれの女が映った‥‥‥


 男の体に緊張が走った‥‥ そして慌てて‥‥‥救急車を呼びました。



 これが彼と、幽霊の彼女との馴れ初めでした。


 救急隊の人は、幽霊の彼女が見えなかったので‥‥彼はちょっと油を絞られました。




 彼女は五〇年ほど前、病気のお母さんのお見舞いに、病院へ向かっていました。


 そしてこの踏切で、事故に巻き込まれました。


 お母さんのお見舞いに行けなかったこと。 それが心残りで、彼女はここで地縛霊になってしまいました。


 彼も家族に先立たれていたので、その思いが心に染みました。 でも地縛霊の彼女は、この場を離れることが出来ません。

 そこで彼は、一つのことを申し出ました。



 よかったら僕に取り憑きませんかと。 そして一緒に、お母さんのことを探しに行きませんかと。




 二人は、病院のあった地へ向かいました。 しかし、時は既に経ち過ぎていました。

 病院は、もう既に無くなっていました。


 彼女のお家のあったところにも行ってみましたが、見慣れないマンションへと、景色を変えておりました。



 それから二人は何日も、お母さんのことを探しました。


 彼がお休みの日に踏切まで、幽霊の彼女を迎えに行って、その日の終わりに踏切まで彼女を送る。

 そんな日々を二人は繰り返しました。


 色んな人に話を聞いたり、図書館に行ったり、市役所に行ったり‥‥‥


 そしてとうとう、お母さんのはいった、お墓を見つけました‥‥


 彼女の瞳に、涙が浮かびました。


 しかし彼女は幽霊です。 彼は、彼女の涙を拭えない自分をもどかしく思いつつ‥‥‥ 二人はお墓に手を合わせました。




 そして二人は、今日も踏切まで戻って来ました。


 お母さんのお見舞い、それを叶えられなかった彼女は‥‥残念ながら成仏出来ませんでした‥‥‥


 今までありがとうと、悲しそうな微笑を浮かべる彼女‥‥‥ 彼の胸が、チクリとしました。


 そして彼は言いました。


 今度、気晴らしに海に行きませんかと。




 それから二人は、色んなところに行きました。


 海に行ったり、山に行ったり‥‥水族館や映画館、喫茶店に行った日もありました。

 たまに変な目で見られることもありましたが、彼は気にしませんでした。


 踏切前のお別れの時は、いつも名残惜しい時間でした。




 ある日、彼が一人の時に、事故に遭いました。


 運悪く内臓を痛め、長い入院生活が続きました。


 もう‥‥長くない‥‥‥ そう悟った彼は、痛む体を引きずって‥‥こっそり病院を抜け出しました。


 彼女の姿を探し求めて‥‥‥




 久しぶりに訪れたその踏切には、彼女の後ろ姿がありました。


 彼の声に気付き振り返った彼女は、その姿に驚き、みるみる心配の色が表情を覆いました。


 彼の話を聞いた彼女の心には、悲しさが吹き荒れました‥‥‥


 でも‥‥最後の力を振り絞って、こうして会いに来てくれたことは‥‥‥ とても‥‥とても嬉しいことでした‥‥‥



 最後に君に会えてよかった‥‥‥


 ポソリとそう語りかけ‥‥彼はこの世を去りました‥‥‥


 彼女に見守られ、とても安らかな最後でした‥‥‥





 この踏切には、幽霊が出るという噂があります。


 血まみれの女の幽霊と、病院服のやつれた男の幽霊が。



 でも、その二人の幽霊を見た人は‥‥ 素敵な恋が成就するなんて噂が、まことしやかに流れております。


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― 新着の感想 ―
[一言] 地縛霊を自分に憑りつかせて移動させるというアイデアが斬新でした。 たしかに、そうすれば地縛霊でも移動できますね! 幽霊の無念って、死んでしまった時点で固定されちゃうのですかね? いつの日か、…
[一言] たとえ成仏はできなくても、想い合う相手とともにいることはきっと幸福なのでしょう。 怖いけれど幸せになれるふたりの噂。彼らの姿は、呪い(のろい)であり、呪い(まじない)でもあるのですね。
[一言] ホラーかと思ったら、愛ある締めくくりで良かったです。
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