表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

03 思わぬ再会

「あ、そういや」

 やや唐突に、米田がポンと手を叩く。彼は既に昼食を終えていた。


「浅井は小説を書いてるんだったよな」

「そうだけど」


 戸惑い気味に返すと、彼は遥の方を向いて言った。

「バリバリの理系で工学部のくせに、作家志望だなんて変な奴だろ」

「……直樹君、浅井さんに失礼だよ」


 キッチンから顔を覗かせて、少し困ったように一色さんは笑った。僕たちの双方へ気を遣っていることが分かる。

 洗い物を彼女一人に任せている米田の態度は、いかがなものかと思う。だが、それを指摘しても雰囲気を悪くするだけだ。


 ともかく、僕が小説を書いているのは事実だ。高校のときはテニス部と文芸部を兼部していて、大学に進んだ現在も文芸サークルで活動している。

 もっとも、「理系は小説なんか書かない」というのは偏見も甚だしい。とある有名な推理小説家だって、理系の学部を卒業していると聞く。



「聞いてるか、浅井」

「あっ、ごめん。何?」


 考え事をしていて聞き逃したらしい。慌てて意識を現実へ引き戻すと、米田は迷惑そうな顔をして繰り返した。

「だからさ、遥がお前の小説を読みたいって」

「……へっ?」


 思わず問い返す。一色さんは刹那、恥ずかしそうに目を伏せた。

「私も、本を読むのが好きで。……それで、浅井さんの小説も、拝読してみたいなって。もちろん、ご迷惑でしたら構いませんけど」


 非常に礼儀正しい話し方に、僕はちょっとした感銘さえ受けていたかもしれない。大学に入り、同年代の女性とは多く知り合っているが、彼女ほど礼節をわきまえた人にはまだ巡り会っていない。

「いえ、全然そんなことはないです。今度、印刷したものを持って来ますね」


 それに、読者を獲得できる貴重なチャンスでもあった。投稿サイトに自作を載せたりもしているけれど、文芸サークルの部員以外で、身近な読者を得るのは案外難しいのだ。


「ありがとうございます」

 嬉しそうに微笑む一色さんを見ていると、何だか僕の方まで気分が高揚してきた。



 意識的にせよ、無意識的にせよ、このとき僕は「また今度会おう」という約束を取りつけてしまった。そしてそれは、「小説の続きを読みたい」だとか類似した要望を受け、不定期に継続される可能性をもつ約束だった。

 幸か不幸か、あのときの僕はそんなことをちっとも考えていなかった。



 話題が尽きかけた折、米田が部屋の隅から何かを引っ張り出してきた。箱に詰められた牌をテーブルに置き、手早く並べ始める。


「麻雀?」

「ああ」


 尋ねると、彼はすぐに頷いた。

 やり方はサークルの先輩から教わったことがある。その後数時間、僕は初心者なりに健闘した。

 米田から教わったのか、一色さんもなかなかの腕前だった。



 二週間後、僕はまた米田の家に呼ばれた。

 要件はもちろん、一色さんに頼まれた小説を渡すためである。二万字弱、やや短めのSF小説。気に入ってくれるだろうか、と少し心配だ。


「お邪魔します」

 前回同様に家のドアを開けると、この間はいなかったはずの人物が視界に入った。


「……あれ、もしかして来客中だった?」

 出直そうかと考え始めた僕へ、その人影は振り返った。うんざりしたようにこちらを眺め、ため息すら漏らす。


「違うって。あたしも呼ばれたんだよ」

 高校時代とほとんど変わらぬ、ボーイッシュなショートヘア。勝気そうな瞳。

 同窓会を欠席した桐木結愛とは、約二年ぶりの再会だった。

余談ですが、今回の話に登場した「推理小説家」とは、東野圭吾さんのことです。僕が一番リスペクトし、文体を真似ている作家でもあります。


さて、主人公に続き、二人目の訪問者も現れました。米田の性格の悪さも見えてきたかと思います。ここから徐々に物語の核心へ迫っていきますので、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ