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01 同窓会

「乾杯」

 貸し切りのパーティー会場の隅で、僕たちはプラスチック製のコップを軽くぶつけた。


 遠くに見える壇上で乾杯の音頭を取ったのは、元三年一組の学級委員。当時と変わらぬリーダーシップを発揮し、同窓会を円滑に運営している。


 ジンジャーエールをぐいっと飲み干し、米田は感慨深げに呟いた。

「しかし、驚いたな。まさか浅井も関東に来ていて、しかもご近所さんだったとは」

「近所ってほどでもないよ。東京と神奈川だろう?」


 苦笑しながらも応じ、僕もオレンジジュースを一口飲んだ。さらに、紙製の皿にフライドポテトを取り分けていく。

 米田直樹とは高校時代からの付き合いだ。同じテニス部に所属していて、何かと接点も多かった。二年ぶりの再会である。


 成人式の日の夜に開催されたこの同窓会には、高校同期のほとんどが出席している。懐かしい顔ぶれと言葉を交わす中で、米田にも出会った。そして今まさに、互いの近況を報告し合っている最中である。



「……それにしても」

 まじまじと彼を見つめ、僕はこう言わずにはいられなかった。


「何だよ」

 米田の怪訝そうな視線が僕を刺す。彼は、浅井凌という人間は温厚な人柄で、めったに失礼なことを口にしないものだと考えているに違いない。けれども、僕にだってどうしても触れたいことがあるのだ。


「米田、少しがっしりしたね」

 だいぶオブラートな表現にしたつもりだったが、言わんとするところは本人にも伝わったかもしれない。

 高校の頃はすらりと背の高かった彼には、今では相当な量の贅肉がついている。スーツの上からでも腹が突き出ているのが分かるし、二重あごになりかけていた。


「ああ、まあな」

 案外、何てことなさそうな調子で米田が頷く。

「彼女と同棲してるんだけどさ、毎日美味い飯を食わされてたらこうなっちまったよ。最近じゃ外出する頻度も減ってるし、そのせいかもなあ」

「え、同棲?」


 一瞬、耳を疑った。しかし、考えてみればありえない話ではない。

 僕たちの出身高校は、中国地方のとある「自称」進学校。僕ら二人のように、県外の大学に行った者も少なくない。

 そして、県外に出るということはすなわち、一人暮らしをするということだ。ある程度スペースのある家に住んでいるのなら、彼女を呼び寄せることも不可能ではない。


「……羨ましいよ。僕なんか、もう一年以上彼女いないし」

 それも、最終的には浮気まがいのことをされてひどい別れ方をしたものだ。僕の口から出たのはお世辞ではなく、心からの賛辞であった。



 だが、米田は違ったらしい。浅井凌の言葉から僅かに羨望のニュアンスを嗅ぎ取ったのだ。にやりと笑い、僕にとって予想外の提案をしてきた。

「そうだ、浅井。お前、今度うちに遊びに来いよ」

「ええ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げそうになってしまい、慌てて口を押さえる。

「いや、でも迷惑じゃないかな。彼女さんもいるんだろう」

「大丈夫、大丈夫。いつも二人きりだとマンネリだからさ、時々友人を招いてやるくらいでちょうどいいんだ」


 そういうものなのだろうか。長くとも数か月程度の交際経験しかない僕には、いまひとつ分からなかった。

 ただ、認めるのはやや悔しいが、米田が僕よりも女性にモテるのは事実だ。彼の言うことには不思議と説得力があった。


「こういうとき、友達なら遠慮しないものだぜ」

 最後の一押しとばかりに、彼がスマイルを浮かべる。それを見ると、もう断る気力も失せていた。

「……米田がそこまで言うのなら、お言葉に甘えようか」

 僕はぎこちない笑みを返した。



 それからは、具体的な話をした。つまり、いつ家にお邪魔すればよいかを決めた。

「善は急げだ」

 米田の慣用句の使い方は微妙に間違っているが、あえて指摘することはしない。


「俺たちが関東に戻ってからで、都合のつく日があれば教えてくれ」

 予定は順調に決まっていく。


 このときから既に、何か不穏なものを感じ取っていたのかもしれない。

 けれども、それを言語化することは非常に難しく、僕は深みにはまっていったのだ。

 ただし、それによって失うものばかりではない。同窓会から始まった一連の出来事を通じて、僕はかけがえのないものを得たのだ。

ある程度書いてから気づいたのですが、この小説の主人公、某作家さんと名前が同じなんですよね(漢字は違います)。


ただ、決して彼を意識して名付けたわけではありません。


浅井凌の「浅井」は戦国武将の浅井長政をイメージして付けたもので、義理人情に厚い人物、という意味を込めています。信長と組んでいた長政は、親交の深かった朝倉氏との関係を優先し、最終的に信長に反旗を翻したことがあります。

「凌」はそのまま「しのぐ」という意味で、ここぞという場面では力を発揮できて、単に優しいだけの人物ではない、と暗に示したつもりです。他人を凌駕できるほどの実力を秘めている、というニュアンスです。


しかし、投稿する段階になって「はたしてこの名前で大丈夫なのか」と悩み始めたのもまた事実です。主人公の名前を変えた方が良い、という声がありましたら、お寄せください。参考にさせていただきます。


長々と主人公の名前について述べてしまいました。一風変わった、ミステリー要素のある恋愛小説になる予定ですので、読んでいただけると幸いです。

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