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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
93/304

失恋記念日

映画館の中は高校生くらいのカップルが多かった。


奈々を見ると、作品に入りこんで表情がころころ変わって楽しい。


作品の中身は途中ドタバタを繰り返して主人公の想いが成就しそうになるが最後は振られてしまうものだった。


エンドロールが終わり、照明が明るくなった。


『奈々?』


振り向くと目を真っ赤に充血させて大粒の涙をこぼす奈々が居る。


『ゔゔ〜、なんで最後振っちゃうんだよ〜、可哀そうじゃん!』


一年前、正義感が強く、他人の困難に立ち向かう奈々に助けられた時を重ねてしまった。


奈々は不器用だけど誰よりも優しい子なのだ。


映画館を出て、少し落ち着いてきた奈々に話し掛ける。


『お腹空いたね。もう一時回ったし、なんか食べよう。』


奈々は顔を赤くしながら[知之]の腕を掴んで歩いた。


二人とも身長が低いので、小学生にも見られるくらいだがバランスは取れている。


『ハンバーガーで良い?』


奈々は黙って頷いた。


いつもの奈々と違って妙な気分である。


その後も気を遣っていろいろ話し掛けるが、返ってくる奈々の言葉はせいぜい一言くらいのである。


二人はその後ゲームセンターに言ってゲームをしたり、プリクラを撮って遊び、電車で地元に戻った。


『公園に行こうか。』


駅から歩いて公園に向かう。


晩秋の公園は木の葉も落ち掛けて寂しい感じだ。


『寒くない?』


『……うん、大丈夫。』


やっぱり返ってくるのは一言だけでいつもの奈々とは違う。


『ねぇ、どうしたの?今日の奈々、全然喋らないし。』


『……だって……。』


ようやく重い口を開けて奈々は話し始める。


『隣に居るの、知之じゃ無くてチカなんだもん。』


頑張って、男の子らしくリードしなきゃと思っていたのだが、奈々はそうは思ってくれない。


『私さ、小さい時から動物が好きだったし、ちょっと弱々しい子見るとなんかしてあげたいなって思っちゃうんだ。』


確かに、萌絵との相性も良い。


『六年生になった時に知之を見て、なんかこの子守ってあげたいって思ったの。』


知之にとってみれば思い出したくない事の方が多い六年生の前半だ。


でも奈々にとって黒川たちにからかわれる知之が愛おしくて守りたい存在だったのである。


『でもさ、あの日、私が手を出したから知之がケガをしてそのまま帰って来なかったじゃない。』


あの時知之は黒川に袖を掴まれていてそれを撥ね退けるために奈々が手をだしたらバランスを崩して机に頭をぶつけたのだ。


『だから、あれは奈々のせいじゃなくて!』


『……だって、本当に知之は帰って来なかったじゃない!学校ずっと休んでて、年が明けて教室に戻ってきたのは弱っちい知之じゃないんだもん。』


帰ってきたのは明るくて誰からも好かれる女の子の知香だったのだ。


『美久やのぞみんたちと一緒にグループに居たけどさ、私はちょっと浮いていたと思う。』


思い返せばクラスが離れて遠くなったとはいえ奈々とは話をする機会が少なくなっていた。


服飾部でいつも萌絵が間に入っていたから気が付かなかったが思い当たる節はいくらでもある。


『一年前の今日なんだよ。』


11月30日、去年の今日は金曜日だった。


もう一年とは思っていたけれど正確な日付は忘れていたが今日だったのだ。


『ごめん。』


『良いよ、いくらチカが頑張ってももう知之に戻る事は無いって分かっていたし、今日これで吹っ切れる。』


返す言葉が無かった。


『でも、アンタ見事過ぎるんだよ。一緒に居ても昔惚れていた男の子だったって事忘れちゃうんだもん。ホントならさ、憎んでやりたいところだけどずるいんだよ。』


『……これからもずっと、友だちでいてくれるの?』


『だからアンタずるいって言うの!今日デートして知之のかけらが少しでも残っていたら願い下げだったのに、全然知之じゃないんだもん!』


裏を返せば、知之はそんなに頼りない男の子だったのかと思う。


『……もうあんな奴の事は忘れたよ。もっともっと弱っちい男探して見返してやるから。』


『知之より弱っちいって……。じゃ、これは取って良いかな?』


知之は帽子を取ると顔だけ知香に戻った。


『今度こそ、サヨナラ知之……。』


『ちょっとチカ、それ私のセリフだよ!今日が私の失恋記念日なんだから!』


『私にとっても同じだよ。』


そう言って知香は奈々の頬に口づけをした。


『ちょ、ちょっと、なんでチカに戻ってキスなんかするのよ?……初めてだったのに。アンタ、萌絵にもそんな事してんじゃない?』


奈々の顔が一瞬赤くなったが喋りはいつもの奈々に戻っているようだった。


『だって帽子被っていたら顔に当たっちゃうし、萌絵とはく……。』


知香は唇と言いかけて止めたが遅かった。


『く?……アンタたちそんな事してるの?』


『い、イヤ、そんな……。』


バレた。


『くそ~!絶対彼氏作って唇奪ってやる~!』


あくまで奈々の方がリードしたい様だ。


『じゃ、また月曜日会おうね。』


『じゃあね、知香。』


奈々はチカでは無く知香と呼んで別れた。






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